部誌9 | ナノ


挑戦者



壊すことは、昔から得意だった。
小さい頃は親に買い与えられた玩具を片っ端から壊していき、そんな俺を親は呆れながらも血筋だと笑っていた。
部品を一つ一つ分解していったり、壊れやすいところに止めを刺したり。ありとあらゆる壊し方を試した。
次第に興味は玩具からそこらへんにあるモノに興味が移った。
最初は庭に置いてあった大きな石。その次は庭に植えてある大きな木。
家の柱に手を出した時はさすがにこってりと叱られた。
生きているモノに手を出していることがばれた時は、それ以上に。
そして親は家業について話をし、俺が色んなものを壊すのを笑うだけに済ませていたことの説明もした。
『仕事以外では生きているものは壊してはいけない』
噛んで含めるように親が言ったその言葉は、裏を返せば、仕事だったらいくらでも壊していい。そういう話だった。
と、俺は今でもそう思っている。
まぁ、それはそれとして。
そうして仕事で色んなものを壊すのが日常になった頃、依頼でやってきた三門市でここ数年、世間を騒がしている近界民というやつに遭遇した。
あと少しで壊し切ると思ったあたりで門が間近で開き、俺の目の前で破壊対象は近界民ことバムスターに踏み潰された。
それは俺のプライドを傷つける行為であったし、それよりも初めて見たソレをいかに壊すかということに心を奪われた。
どこを壊せばいいかはわかるのに、手持ちの道具では壊しきれない。それでもなお、その上でいかに壊すかを考える。
久々に味わう喜びに俺は思わず叫びだしそうになり、それをこらえて新たな標的を見据え、一番効果のありそうな獲物を握りしめた。
その時。
目の前の近界民はぱっくりと二つに割れた。

「はぁー?!」

あまりの出来事に俺は思わず叫んでいた。

「…アンタ、逃げ遅れたのか?怪我とかはないか?」
「いやいや…。はぁ?マジ、なんなんすか」

近界民を二つに割った男は俺の叫んだ声で俺がいたことに気付いたのか、そう声を掛けてきたが、目の前の標的を台無しにされた俺は珍しく取り乱していた。

「いや、ほんと、なんなんすか。あぁ、いや、俺が場違いなのは承知の上なんすけど。アレ、壊してみたかったのに…」
「なかなか無茶なこと考えるな…」
「うっせぇ、おっさん」
「お、おっさ…」

壊れた近界民の周りをうろうろしながら文句を言う俺を、その人はどうするべきか計り兼ねているらしい。
時折入る通信に一般人を保護してどうのこうのと言っている。適当に避難しとけって言って次の現場に行けばいいのに。
完全に弱いモノ扱いをされて余計むかっ腹が立ってきて、この不完全燃焼の気持ちを目の前の相手にぶつけてもいいかとは思ったが、今の俺では壊しきれないのはすぐに見て取れた。
生身の人間じゃないなら、どんな凶器だって意味をなさない。

「ねぇ、アレってボーダーとかいうのに入れば壊し放題なんすか?」
「壊し放題…。まぁ、主な任務はああいうのからこの世界を守ることだからあながち間違いじゃないが…」
「どうすればボーダーに入れるんすか?」
「入隊テストに受かれば、まぁ、入れるな…」
「ふぅん…」

じろじろと目の前の相手を観察して、遠くに見えるボーダーの基地とかいう建物に視線をやった。
何度見ても物々しい建物だ。

「あそこ行けば受けれるんすか、その試験」
「一般公募に応募すればな」
「なるほど。ありがとうございます。んじゃ、俺はこれで」
「あ、おい。安全なところまで案内するから」
「はぁ、あざっす」

くるりと向きを変えて歩き出した俺をその人は慌てて呼び止め、律儀に案内をしてくれ道中も気さくに色々と話してくれたが、俺のことを訝しんでるのは手に取るようにわかった。
確かに、あんな場所で近界民に平然としてたり、壊したかったなんていう人間、普通だったら訝しんで然るべきだ。俺も迂闊だったとは思う。

「あ、最後に名前、聞いてもいいっすか?」
「……太刀川だ」
「タチカワさん…ね。親切に色々とあざっした」
「気を付けて帰れよ」

ぺこりと頭を下げた俺の頭を軽く叩いてその人、タチカワさんは去っていった。

これはボーダーに入隊してから知ったことだが、そのタチカワさんはボーダー内で個人総合一位の人間だということ。
俺のトリオン量は多い方の部類らしく、この目もサイドエフェクトの賜物だということ。

「あー、早くタチカワさんと戦ってみてぇなぁ」
「いや、お前、入隊して早々そんなことできるわけねぇだろ」

入隊早々にそうぼやいた俺の言葉に同期たちは呆れたように笑ったが、意外と早くその望みは叶うこと。
そしてさっぱり歯が立たず、悔しさというものを味わう羽目になること。
壊すこと以外に興味のなかった俺がタチカワさんにすっかり夢中になり、ひたすらタチカワさんを倒すために挑み続けること。
その他諸々。
そんな日常が来ると思っても見なかった俺は、帰ったら早速ボーダーについて調べようと呑気にその時は考えていたのだった。



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