部誌9 | ナノ


挑戦者



別に会った時から好きだった訳ではなかった。
平介に出会ったのは小学生位の時。
あの時から平介は今みたいに無気力で、無関心で。
お菓子とお昼寝の大好きな男の子だった。
好きと自覚したのも、最初は平介のお菓子が美味しいな、好きだなって思ったところからだ。
美味しいお菓子は好き→お菓子を作るのは平介→美味しいお菓子を作る平介は好き。
幼い私は完全に餌付けされてしまった。
いや、単純な脳みそだと我ながら思う。

「なまえはお菓子作り下手だなー。」
「面目ない…。」

焦げてしまったマフィンを食べる平介の少しだけ寄っている眉間の皺にまた駄目だったか…と、溜息が出る。
私もそれなりの女子で、好きな男の子に美味しいものを食べさせたいと思うわけで。
料理は、そこそこ出来る。
ただお菓子は少し苦手だ。
ちゃんとお手本通りに作ってはいるんだけど、焦がしてしまったり、固まりが甘かったりとなんだか残念な感じになってしまうのだ。
今日のマフィンも、ちゃんと本通りに作ってみたのに、焦げてしまった。

「なんでかなー。」
「筋は悪くないのにねー。」

もふもふと食べ続けている平介からマフィンを取り上げる。
少し駄目でも味は損なっていないからと、何時も全て平らげてしまう。
そのせいで夕飯が食べれないこともしばしばあるみたいで、この前お母さんに注意されてしまった。

「なまえ、ぼ、僕も!」
「え、秋くんも?」
「食べたい!」

私の足元でマフィンを受け取ろうとぴょんぴょん跳ねる秋くんに困ってしまう。
秋くんは平介のお菓子をよく食べてるから舌が肥えてそうだからなぁ。
特に小さい子は苦味を敏感に感じるらしい。
困ったままマフィンを掲げていたら、一個取られて秋くんの手へ。

「あ!」
「いいじゃん一個くらい。」
「美味しくないんでしょ?」
「不味くはないよ。俺に比べたら下手だな、と思っただけで。」
「さいですか…。」

励ましとも言えない言葉に肩を落とす。
マフィンを齧る秋くんの表情を見る。
何時も平介のお菓子を食べるとこう、花がふわわーっと散ってる感じがするんだけど、今日はそんな感じがしない。

「秋くーん、美味しい?」
「…ふ、普通においしい。」
「え。」

笑顔で言われた。でも普通って。
後ろで笑いを堪えてる平介は置いとくとして、普通と言われたショックが強い。
不味い言われるよりも何気に悲しい気がする。
そんな私の気持ちを察知したのかあわあわする秋くんの頭を撫でてあげる。

「とりあえず、普通から脱出する。」
「ふ、くく。頑張れー。」

未だ笑ってる平介の頬を引っ張る。
いつか見てろよ、絶対おいしいと言わせるからな!



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