部誌9 | ナノ


ボタンのかけ間違いは一生続く



別に自分の立場が特別だとは思わない。
けれど、世間的に異例なことなのだろう。
六つ子の従兄弟と言うのは。

「松代さーん、こんにちは。」
「なまえくんお久しぶりねぇ。」
「これ母さんから、梨です。」
「あら、何時もありがとう!」

松野宅にこうして御宅訪問をするのは何度目だろうか。
小さい頃は学校の休みを利用してよく遊びにきたけど、成人となって自分たちの時間が増えてからは一年間で数えるくらいしかなくなった。
あんなに大きく感じた家も、なんだか小さく思える。

「あれ、みんなは?」
「さぁねえ、各々遊びにでてると思うんだけど。」
「そっか。あ、俺この後用事があるんで帰りますね。」
「あら、残念。」
「また今度ゆっくり遊びにきます。」
「そう?お母さんによろしくね。」
「はーい。」

あいつらが家にいないとは珍しいが、いたところで用もないし、寧ろ面倒事に巻き込まれるだけだ。
実際、折角ここまで来たから行きたいお店もあるしさっさと離れよう。
松代さんへの挨拶もそこそこに、駅に向かう。
そういえばよく遊んでたトト子ちゃんは元気だろうか。

「あれ、なまえだ。」
「本当だ、久しぶりぃ!」
「チョロ兄にトド兄。久しぶり。」

商店街をぶらぶら歩いていたら、前から見知った顔がふたつ。
と言っても傍目からみてそう違いなんてないんだけど。
松印の入った緑とピンクのパーカーを来て歩くなんて相変わらず仲がいい。
というか彼らの服はだいたいお揃いのものが多い。松代さんの苦労が滲みでている気がする。

「うちに遊びにきてたの?」
「母さんから届け物頼まれて。」
「そーなんだ。あれ、ていうか帰るの?」
「駅前のビルで買い物する予定だし。」
「何買うの?」
「服と靴。あと本かな?」
「「ついて行っていい?」」
「は?」

綺麗なくらいハモってみせた二人を呆然と見つめ返す。
何で期待を込めた目で見つめ返しているんだこの二人は。

「服なら僕アドバイスできるよ。」
「やだよ、トド兄ついでに自分の服見始めて長いじゃん。」
「この前読んだ本超面白くてさー、他にも色々教えるよ。」
「やだよ、チョロ兄評論家気取りで批判しかしないじゃん。」

左右の腕をそれぞれにがっつり掴まれて逃げ場を失う。
なんで買い物しようって時にこの二人に会ってしまうんだろうか。

「「そこをなんとか!おねがーい」」
「…本心は?」
「「あわよくば自分たちに何か買ってほしい。」」
「…年下に集って恥ずかしくないの。」

ニートでクズで、本能に忠実な俺の糞な従兄弟たち。
俺は社会にでて働きだしてまだ一年くらいだけど、松野宅に寄り付かないのはこの糞ニートたちがいるからだ。
何かにつけて俺に集り、奢らせようとするせいで俺の財布は閑古鳥が鳴り止まない。
一人とか、すごく稀とかならいいが一度に六人分はキツい。
ただでさえ、一人暮らしをしようとお金を貯めて、節約してるのに。

「絶対やだ。」
「んんんー!」
「いや、そんな顔しても駄目だからねチョロ兄。」
「お願い!」
「あざとくても駄目。てかトド兄バイトしてるからお金あるでしょ?」
「諸事情によりやめました。」
「…あっそ。」

二人はついに一体となって両隣で子供の如く喚きはじめる。
いい歳した大人が恥ずかしい。
何でこの人たちがいとこなんだろう。
というか何時からこんな風になったんだ。
六つ子みんなニートとか…松代さん、それでいいのか。

「あーもう、うるさい!分かったから離れて!」
「「連れてってくれるの?」」
「連れてくから離して。歩き辛い。」
「「いえーい!」」

ハイタッチなんかして喜ぶ二人から徐々に距離をとる。
今月は自分が遊ぶ為に幾らか必要だから正直奢る余裕なんてない。
ここはズラかるとしよう。

「ってあれ?なまえは?」
「あ!いない!また逃げたな!」

長年彼らと付き合って得たものといえば逃げ足の速さと、うまく隠れること。
こんなこと特技になっても一つも嬉しくないが、真っ向から相手して勝てる相手じゃないから、仕方ない。
人混みに紛れてどうにか二人から遠ざかる。

「やれやれ、なんとかまいたかな?にしてもこれじゃ買い物どころじゃないな。他の兄さんたちも出かけてるっつってたし、鉢合わせにならないようにしなきゃな。」

こういう時、神様赤塚様は意地悪だ。
きっと帰るまでに残り4人と出くわすだろう。
うまく逃げ切ることを祈りつつ、早足に駅へと向かった。



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