部誌9 | ナノ


最愛、在れ



平介との付き合いは長いけど、彼の知らないことはまだまだある。
意外と面倒見がいいところとか、他人に優しくできることとか。
こんなことに感心するのは、人としてどうかと思う反面、平介だから仕方ないと、納得してしまう。

「だから君には感謝しているんだよ。」
「?」

突然声をかけられてびっくりしたのか、私を見上げたまま固まる秋くんが可愛くて、頭を撫でた。
子供特有の小さくて丸い頭を撫でるのは心地がいい。
秋は私の挙動に困っているものの、撫でられることは嬉しいのかへにょり、と頬を緩ませる。

「おやつできたよー。」
「わはーい。」

平介の作ってくれるおやつは何でもおいしい。
今日は私のリクエストで、さつまいもの蒸しパンケーキだ。
出来立てで熱いのを一つ受け取り、頬張る。

「おいしーい。」
「お、おいしい!」
「ん、どうもー。」

秋くんも一つ受け取り、頬張る。
おいしさのあまり背景に花が飛んでるのが視えた気がした。
平介も同じように蒸しパンを食べ、花を飛ばしてる。
似た反応をする二人に、笑いがこぼれてしまった。

「あぁ、秋くん。ついてるよ。」

秋くんのほっぺたについた食べかすを取って自分の口に放り込む。
小さな食べかすでもパン生地とさつまいもの甘みを感じ、平介の腕前に改めて感心した。

「あ、ありがとう。」
「どーいたしましてー。」
「なまえって子供好きだよね。」
「そうかな?」

素直にお礼を言う秋くんの頭をまた撫でる。
緩みまくってる頬を平介に突かれてしまった。
ふにふにと優しく触られるとなんだかくすぐったい。

「子供が好きって言うより、秋くんが好きかな?素直でいい子だよね。」
「!」
「俺も素直だよ。」
「平介は素直すぎるからなー。」

私の好き、と言う単語に反応してか、ぷくぷくの頬を赤く染めて照れている秋くんに胸が温かくなる。
また、頬が緩んでいるんだろうな。
あんまりにも私が秋くんを可愛がるのがつまらないのか、自己主張をする平介に苦笑する。
平介はそもそも子供じゃないんだけどなぁ。
つまんなそうにすねる平介の頭も撫でてあげる。
ふわふわした髪の毛が撫でていて気持ちいい。

「お、おれはへいすけすき。」
「子供に気を使われた…。」
「なまえは?」

子供って素直だけどちょっと残酷でずるい。
期待のこもった目が4つ。
秋くんは分かってても、平介はなんだその目。

「えー、うーん、そーだなぁ。」
「き、きらい?」
「嫌いじゃないよ。うん、まあ、好き、かな。」
「まじで?やったー。」
「感情がこもってないなぁ。」

好きか嫌いかの二択だと、そら好きと答えますがな。
平介のことを好きと言ったのに、自分のことのように喜ぶ秋くんは可愛いからいいとして。
本人である平介の反応が適当すぎてむかつく。

「そっかー、好きかぁ。」
「!」

普段通りのにへらっとした笑顔ではあるけれど、背景に花が飛んでるのが見えて。
その素の反応に胸がキュンとする。

「もー、それはずるいわぁ。」
「「?」」

ときめいてしまった自分に腹がたつけど、この二人の幸せそうに蒸しパンを食べる姿を見てるとどうでもよくなる。
できればこのまま、ずっといれればいいなぁ、なんて。
そんなこと思いながら残り僅かな蒸しパンを食べた。



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