部誌9 | ナノ


となり、いい?



「となり、いい?」

高鳴る鼓動を押し殺し、ごく普通に相席を申し入れるように声を掛ける。
それだけでも、なまえには非常に勇気のいることだった。

「どうぞ」
「ありがとう」

特に断る理由もなかったらしい三雲修はなまえに頷いて隣の椅子を引き、その様子になまえはホッとしたように表情を綻ばせて修が引いた椅子に腰掛けた。

「……ねぇ、君が三雲修クンでしょう?」
「そういう貴方はみょうじ隊のみょうじさんですよね」
「あれ、知っててくれたんだ。ほとんど隊としては機能してないのに」

しばらくまじまじと修の横顔を眺めていたなまえが猫のように目を細めて尋ねると修はあっさりなまえの名前を言い当て、なまえは目を丸くしてから嬉しそうに笑った。

「あぁ、でも……そうか。うんうん。そうか」

小さく呟いて何度か呟いて頷いたなまえに修は疑問の視線を向け、なまえは何でもないよと笑った。
しばらく世間話のような会話を交わし、なまえは席を立ち、数歩離れた場所で強く目を瞑る。

今自分が立っている場所から、意識を遠くへ飛ばすイメージをなまえは浮かべる。

急速に浮上する意識。うるさいぐらいに鳴り響く鼓動。開いた眼前に広がる暗闇。目元を覆うアイマスクを乱雑に投げ捨てる。全速力で走った時のように上がった呼吸。汗で張り付く髪を掻き毟る。

「よ。起きた?」
「迅か」

顔を見なくてもなまえには声の相手が迅悠一だという確信があった。

「うちのオペレーターが呼んだのか」
「そ。君のサイドエフェクトと俺のサイドエフェクトは相性悪くないからね。で、何を見た?」

暗くした仮眠スペースに置いてある椅子に腰掛けてじっとなまえを見下ろす迅をなまえは鼻で笑った。

「残念ながらネイバーからの侵攻関連とかじゃないぞ」
「じゃあ、うちのメガネくんか」

怒ったような口調で吐きすてながら身体を起こしたなまえに迅は意地悪く笑う。

「ほんっとお前、キライ」
「まぁまぁそう言うなよ」

ギロリと迅を睨みつけるなまえに迅は笑って、その髪を軽く撫でた。
その視線になまえは居心地が悪そうに視線をそらし、迅の手を振り払ってベッドから立ち上がった。

「で、どんな夢だったんだ?」
「……お前には関係ないだろ」

迅がなまえの背中に投げかけた言葉に、なまえはゆっくりと息を吐き出してタオルで顔を拭いた。
そのままタオルに顔を埋めるなまえの頭を迅は軽く撫でた。

「お前が見たのは、この後どう動くかで覆せる未来だって実証済みだろ」
「うるせぇ」
「……なぁ、どうしてメガネくんにそんなにこだわるんだ?」
「お前には教えねぇ」

タオルに顔を埋めたままのなまえの髪を撫で続ける迅に、顔を上げたなまえはタオルを投げつけて仮眠スペースから出ようと踏み出した。
きっと三雲修はなまえのことを覚えていないし、知らないだろう。その確信がなまえにはあった。
誰よりも付き合いの長い、誰よりも関係の深い迅悠一には、なまえが知る三雲修について教えていない。この先、教えるつもりもない。
そのことを教えるということは、なまえにとっては、心を明け渡すことにも似ていた。

「暇ならちょっとトレーニング付き合え」
「はいはい」

湧き上がる言葉を押さえ込んで少しだけ振り返ったなまえに、迅は全てわかりきった顔で笑って答えた。




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