初夢
大晦日。
シングルベッドを二つくっつけた謎のダブルベッドの中で、パッツォとシラーの二人はのんびりとおしゃべりをしていた。
「はつゆめ?何それ」
「初夢は初夢よ、シラーあんた知らないの?」
「俺,学ねぇの知ってるでしょ」
「知ってるけど」
初夢。
いろんな説があるらしいが、まぁ要するに新年初めて見た夢のこと。
その中で縁起のいいものが出てくれば、良い年になるらしいとかそんな話。
本人の記憶の中では、生まれたときからひとりぼっちのシラーは一般常識も含めた知識を得る機会がほとんどなかったらしい。
半面、孤児ではあるものの幼い頃に竜族の族長一家に拾われたパッツォは、それなりの教育を受けていた。
そのため、二人が出会ってしばらくは、パッツォの指導によるシラーのだいぶん遅い教育が行われていた。
「ふーん、それで縁起のいいものって?」
「えっと、わすれた。なんか山と鳥と・・・やさい?」
「なにそれ」
「他にもあとみっつぐらいあった気がするけど、うん忘れた!いいや、寝よ!」
結局、そんなぐだぐだした話をしながら、それぞれの縁起のいいものを思い浮かべながら、二人は眠りについた。
翌朝、お正月で数日休みということもあり、二人はぐっすりと眠った。
昼前、先に目覚めたパッツォがコーヒーを入れていた。
「・・・ん、嬢ちゃんはやい・・・」
「おはよ、つってももう昼前よ」
寝ぼけ眼のシラーのもとにコーヒーを持っていく。
それを受け取ったシラー、コーヒーを一口飲んで、少し困った様子でパッツォに話しかけた。
「・・・あんさぁ・・・昨日初夢だなんだって言ってたじゃん」
「うん?なんか見たの?」
「山の頂上でチキンと野菜のスープ食ってる夢みた・・・」
「ま、まちがってはいない・・・!」
その後、せっかくだからということで、二人でチキンと野菜のスープを作って食べたそうな。
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