部誌8 | ナノ


見せない傷跡



「起きて。」

ねえちゃんの声がする。いつ助かったの。

「ね、起きて。」

今までの、全部夢だったのかな。

「起きなさい。」

ちょっと待ってよ。すごく疲れる夢を見たんだ。
あんなに力を使ったの、初めてだったよ。
悪いヤツをやっつけて、走って、逃げて、飛んで、でも全然鳥みたいじゃなかった。
それで、落ちて…


「起きやがれ!」


なまえが眼を開けると、ひげ面の男の顔が飛び込んできた。

「ゲホッ!ゴフ…、げほげほ」

息をしようとする度、口から海水が飛び出す。
苦しい。首を絞められてるみたいだ。

立って。逃げなきゃ。体がうまく動かない。

「おい、聞えるか?」

さっきのひげ面が覗きこんでくる。
このままじゃ、掴まっちゃう。

なまえは持てる力を振りしぼって、片腕で男の顔をなぎ払った。

「ってぇ!何しやがる!」

棒みたいに動かない腕を床についた。がくがくと震わせながら、体を起こす。
体が痛い。重い。動かない。
どうにか体を持ち上げても、立つことはできない。
ドクドクと音は聞こえるのに、周りの音が全然聞えない。
眼も霞んで、何が起こっているのかわからない。

四つん這いのまま、ぜえぜえと肩で息をする。
睨むように辺りを見回した。

「おいおい、落ち着けって。お前ぼろぼろじゃねぇか。」

ひげの男がまたなまえに手を伸ばそうとした。

「ッ!」
触らないで!

ブワッと風が巻き起こった。
なまえを取り囲んでいた男たちは腕で目を覆った。

なまえはどうにか立ち上がると、空へ飛び上がろうとした。

「誰か!水かけろ!!」

声と共に水が飛んできた。途端、また力が抜けた。
逃げなきゃいけないのに。立っていられない。
ガクッと膝をついた。男たちに取り押さえられた。

「はなっしてッ!」

おねえちゃんを助けに行かなきゃいけないのに。
捕まっちゃいけないのに。

なまえは腕を振り回し、暴れた。

びりっ

服が破れた。

「あっ」

なまえはとっさにおねえちゃんの言葉を思い出した。
『覚えておいて。この焼印を誰にも見せちゃだめよ。』

服が裂けて肩が見えた。これを見せちゃいけないんだ。
肩を押さえた。これだけは。これだけは見せちゃいけない。
ぼくは人じゃなくなってしまう。

これだけは…


チクリと痛みを感じ、振り返った。
しかし何が起こったのかわからないまま、なまえは気を失った。



「ったく。手間かけさせやがって。」

一瞬の隙をついて、ドクターが鎮静剤を打った。
なまえはまたドサッと倒れ、夢の中へと戻された。


ベックマンは静かにそれを見ていた。



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