日常の隙間
今日は部活もアイドル活動もオフだったので、たまには家でゆっくりしようと下駄箱に向かった俺はそこで珍しい人物に出くわした。
「鬼龍じゃん、今日は紅月も空手部の練習もないんだ?」
「あぁ。そっちも休みなのか?」
「まぁな。大会も終わったし、今日ぐらいはゆっくり休めってことでオフになった」
そのまま俺たちは一緒に帰ることにした。思えば鬼龍とは三年間同じクラスだったのに、一緒に帰るのは初めてかもしれない。尤も、他のアイドル科の生徒と一緒に帰ることも滅多にないのだけれど。こうしていると、なんだかすごく普通の高校生だ。折角だったらもっと高校生らしいことをしてみたい、そう思った俺の口から自然と言葉が漏れた。
「なぁ鬼龍、この後暇だったらどっか寄っていかないか?」
「おう、いいぜ」
「サンキュー」
俺は二つ返事でうなずいた鬼龍とともに、商店街へと向かうことにした。
夕方ということもあり、商店街は様々な人たちが行き交って賑わいを見せている。今までアイドル活動の一環としてステージに立つことはあったが、お店をきちんと見たことはなかったので新鮮だった。放課後ということもあって、美味しそうな匂いが俺の空腹をさらに加速させる。
「あれ美味そうじゃね?いや待てよ、奥の店も捨てがたい。ん?あっちも食べ物売ってるじゃん。うわ、大きいな!食べたい……くそ、めちゃくちゃ迷うんだけど」
「そんなに食えるのかよ、腹壊すぞ」
「だって鬼龍、目の前にこんな美味そうなものがあるのに食べないわけにはいかないだろ。次いつ来れるか分からないんだから今食べなきゃ」
「しょうがねえな、俺も買うから分けてやるよ。二人のほうが色々食えるだろ」
「いいのか!鬼龍さんマジかっけーっす。やっぱ下に兄弟がいると面倒見が良くなるのか?月永とか朔間も意外と優しいんだよなぁ」
「お前にはみんな甘いんだよ」
気になった食べ物を片っ端から買いながら、俺たちはだらだらと歩いていた。クラスメイトのトンデモ話ーーそのほとんどは三奇人か王様についてだったことは言うまでもないと思うーーやユニットのあれこれを話しながら話していると、いつの間にか日が沈み、街灯が灯っていた。そろそろ帰らないと明日は朝練が待っている。
「なんかこういうのいいな」
「そうだな」
「また付き合ってくれよ」
「あぁ」
空には一番星がキラキラと輝いている。たまにはこういう日もいいかもしれない。
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