部誌8 | ナノ


挽歌



雪の降りしきる季節
貴女は庭に咲く赤い椿を見ながら
【綺麗ですね】と私に微笑みかける



「貴女もお綺麗ですよ」

『菊さんは口がお上手なんですね』



頬をほんのり染めて
暖かいお茶を飲みながら
日の当たる縁側で
白色の中に映える赤い椿を一緒に眺めていた

いつまで一緒にこの景色を眺めていられるだろう
私は国で貴女はわが子のようなもの

【貴女といると心が休まりますよ】と
何度伝えようと思ったか
伝えてしまったら、この関係が終わってしまいそうで
怖くて伝えられなかった



『菊さんは昔と変わらず
 私を大事にしてくれてる』

「私の大事な人になりましたからね」

『菊さんと過ごせるのはあとどのくらいでしょうね』

「さあ…どのくらいでしょうか…」



寂しそうに笑うあなたの手を取って
優しく握り返す

昔より皺が増えましたね
ですが、笑った顔はお変わりなく綺麗ですよ

季節が何度か巡り
また、貴女が好きなこの季節が来ましたね



『菊さん…』

「はい、なんでしょうなまえさん」

『私を抱きしめてくれませんか?』

「おや、どうされました?
 いいですよ」

『…最初で最後の抱擁ですかね
 私のこと忘れないでください…ね
 また、赤い椿の花を見れることを願って』

「なんて、綺麗なんでしょうね…
 ねえ、なまえさん」



私の腕の中で
眠るように息を引き取った



「こんなに軽かったんですね
 結局最後まで口にはできませんでしたね…
 もう少しそばにいてほしかった
 だなんて、私はわがままでしょうかね」



火葬場で棺を見送りながら
貴女が眠っている棺に話しかける



「愛おしい人と過ごす時間は
 とても美しく、いつも見る景色が
 違うように見えておりました
 今は色あせて見えますよ」

「貴女がいないだけで
 こんなにも世界は色がないなんて
 知らなかった…」



周りに聞こえないように
あなたにだけに聞こえるように
歌を歌うように
今までの思いをつぶやく

棺の中で貴女が笑ったような気がした



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