部誌7 | ナノ


確かに、愛だった



適度な硬さのベッドに、肌触りのいいブランケット。
洗濯された布からは、清潔な香りがする。
太陽の下で干された布団もたまらないが、洗剤の香りがほんのりする生地だって、負けて劣らずの良さだ。
室温だって、寒すぎず、暑過ぎずの適温。
これは、昼寝をするなと言う方が無理な話である。

山奥にある、クロロのセーフハウスの一つであるこのロッジは、室内に居ても、森の中を飛び回る小鳥のさえずりが聞こえる。
お気に入りの本を、これでもかというほど詰め込んだ本棚が占める一階ではなく、二階の寝室で、今クロロはまどろみ始めていた。

クロロは幻影旅団の団長を担っているが、かといって、それで一年中忙しくしているわけではない。
たまの休み、というよりも、一年の大半が休みのようなものだ。
ふとした時に、何かが欲しい、何かがしたい、という理由ができた時だけの、団長という務め。

この家に居る時は、髪もセットせず、アクセサリーも付けない。
衣服だって、ゆったりとして、柔らかい生地の服だ。

このまま本格的に寝てしまうか、ただうとうととまどろむだけで済むのか。

――まあ、眠気次第でいいか。

そんな惰性。



だが、まどろむクロロのベッドへ、近づいてくる足音が一つ。
クロロは、その相手が誰か知ってはいるが、眠気が勝って、目を開けてそちらに視線を向けることもしない。

「クロロ、今から寝るつもりかい?」

男のそんな問いかけに、クロロは返事をする気はなかった。

「また生活リズムがおかしくなって、夜食を作れってたたき起こされるのは嫌なんだけどな」

男の言葉は、クロロに対する文句であるが、その声音は優しい。
クロロがまどろんでいるベッドのふちにゆっくりと座り、遊ぶように彼の髪の毛を指にからめる。
耳に触れるその指がくすぐったくて、クロロは頭の位置を変えた。

「オオカミさんに食べられたいの?」

男の手が、すっと、ブランケットの中に入ってゆく。
そのままクロロの腹を撫でる。
男の体が、クロロが横たわるベッドへと乗り上げた。
服の上から触っていた手は、次第にもぐりこみ、素肌に触れる。
その手が下着に指を入れ、脱がされそうになって、ようやくクロロは、相手の頭に痛撃な手刀を落とす。

「なんだよ、寝てたんじゃないのかい?」
「お前がスケベなことしてきたからだ、ヒソカ」

人が気持ちよく寝ようかという時に、何をする。
そんな怒りがありありと伝わるであろう視線を、男――ヒソカに、クロロは向けた。

「据え膳なのかと思ったのに」
「この間シただろ……」
「足りないね」

その即答っぷりに、クロロは呆れるしかない。

「発情期なの、お前?」

未だに体をぴったりとくっつけたままのヒソカに対し、クロロは脚と手で跳ねのけようとしてみる。
が、ヒソカはそれ以上の力で、退けようとしなかった。
本気の力で対抗すれば、五分五分といったところだろうが、そんな本気になる必要性は今はない。
ただのじゃれあいだ。

「ボクが発情期になんてなったら、クロロは大変だね」

ヒソカの薄い唇が、クロロの額に触れる。
そのままクロロの匂いを嗅ぐようにして、首筋へと鼻や唇を押し付けた。

「俺は付き合わないから、そこらへんの犬にでも相手してもらえよ」
「つれないなあ」

そんなことを言い合いながらも、まだ二人はベッドの上で、今では指や脚をからめている。
これはお互いの気まぐれだから、成り立っているのだ。
体をたまに繋げるのも、唇を触れさせるのも、こうしてクロロのセーフハウスにヒソカが居ることも。
不快だ、と思えば、それで関係は終わり。
殺したい、と思えば、そうするだろう。
これはもしかすると、殺し合いに至るまでの、準備段階なのかもしれない。

「俺は寝るから」
「起こす時間は?」
「夕飯できたら」
「はいはい」

それまでの、終了時期未定で期間限定の、和やかな時間。



prev / next

[ back to top ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -