部誌7 | ナノ


凍った瞳



苦手だったのは、その目だった。
芳川樹は正しいと思ったことをやりぬく人だ。その力と才能を持つ人。
強い人だと思う。その目はいつもひたむきで、前だけを見ている。
その生い立ちから、それは仕方ないことだったと思う。だけれど、その強者が持つ瞳の力強さが苦手だった。
真正面から見つめられると、より一層。迷いのない瞳は凍ったようにまっすぐに罪だけを見つめる。
怖かったのが半分、その強さが羨ましかったのが半分。検事として、憧れてさえいた。
その彼が変わったのは最近、事故にあって昏睡状態から目覚めたあと、憑物がおちたように、僕は彼を怖いと思うことがなくなった。
罪を見つめる鋭い視線は変わらない。その強さも、その意思もかわらない。だけれども、不安になるほどのまっすぐさは消えたように思う。やさしくなった。あたたかくなった。
彼の父親を殺したという犯人が見つかったらしいと風のうわさで聞いた。それ以上のことはしらない。何が彼を変えたのか、僕は、知らない。

最近、僕は、それが悔しくてならない。



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