部誌7 | ナノ


運命の選択



真夜中の繁華街。
たくさんの人たちがお酒を飲んで楽しそうに帰り道につく頃、僕は仕事を始める。
軍人さんに捕まるような悪いことはしない。
ただ、この世で一番したくない仕事。
でも、この仕事が今の僕には一番稼げるお仕事。

「ねぇお兄さん、僕を一晩買ってくれない?」

男の子を買ってくれそうな人はなんとなくわかる。
そんな人たちに声をかけてかけて、ひたすらかけて、一晩、買ってもらう。
そうして手に入れたお金で、僕たちは生きてきた。

「テオ、テオドール、パン買ってきたよ」

隠れ家で待っている僕のきょうだい。
お姉ちゃんなのか妹なのかはよく知らない。
この国の近くの森で目を覚ましてからの記憶しか、僕たちにはない。
覚えていたのはそれぞれの名前と、鉄格子越しのぼんやりとした景色と、薬の匂いだけ。

テオは体が弱くて、ずっとここにいる。
彼女のためにも僕は働かなきゃならない。
ぼんやりと目を開けている彼女にパンを食べさせてあげる。

「今日はあんまりお金もらえなかったから、固いパンでごめんね、でも明日は美味しいもの食べられるようにがんばるね!」

そういうとテオは少しだけ微笑んでくれる。
いつか、二人で幸せに暮らせる日が来るのだろうか。
そんなことを考えながら、お日様が目を覚ますのとは逆に、僕は眠りについた。

翌日、僕はいつものように買ってくれる人を探して夜の街を歩いていた。
今日は残念なことに雨、雨なんてあんまり降らないのに。
雨宿りと人探しを繰り返していると、急にぐいっと手を引かれた。

「あんさん!ちょお顔見せェ!」

なまりの強い言葉遣い。
知り合いなんていないのに、一体誰かと身構える。

「あ、の」
「あんさん、やっぱり…ほれ、ワイや!覚えとらんか?」

知らない顔、知らない声。
でも、その毛色は知っていた。
鮮やかなだいだい色。
おひさまのような、明るい色。

「お兄さん、どこかで会った?買ってくれたこと、あった?」
「買っ…あんさん覚えとらんのか…いや、その方が幸せか」
「僕の昔のこと、知ってるの?」
「いや、それよりあんさん、買うてくれ言うてたな。ええで、丸々買うてやる…そや、妹おるやろ、あれも丸々」

一瞬、意味がわからなかった。
ゆっくりと説明してくれて、ようやく理解する。
彼は医者で、僕を弟子にしてくれるらしい。
買うと言ったのは、そのお金で身の回りの物を揃えられるようにするためだと。

「本当ならとっても素敵なお話だけど、どうして僕にきょうだいがいるって知ってるの、何だか都合良すぎない?お兄さんどこのお医者さん?悪いことしない?それに…」
「あーあーいっぺんに聞かんといてや!今すぐっちゅうわけにはいかんやろが、いつか話したる、安心せえ」
「ほんとに?奴隷とか僕やだよ」
「安心せえ言うとるに…まあ信用せえちゅうんが難しいやろけど…」

結局、すぐには信用出来ずにその日は別れた。
けど、何度か会っていくうちに、この人なら賭けてもいいかもしれないと思い始めた。
どうせ今の生活だって死んでるのと似たようなものだし、悪くはならないだろう。
毎日楽しく笑える、そんな日々を目指して、僕はこの人と行くことを、選んだ。

「だから、お兄さん僕とテオを買ってください」
「ようやっとやなー、名前で呼べ言うとるに」
「出来るだけ高くお願いします、名前なんでしたっけ」
「あんさん…クライスや」
「ではクライスさん、よろしくお願いいたします」
「へいへい、エディ」



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