部誌6 | ナノ


幸福の必須項目



花の国の軍の近くに教会がありました。
そこはもう本来の教会としての役割を無くし、ただそこに存在しているだけの教会でした。
昔は美しい姿だった神様も今はホコリまみれです。
そんな教会ですから、そこはあまり穏やかではない人たちが寝泊まりする危険とも言える場所になってしまいました。

「なぁ」
「なに」

教会の中、羊の耳と角が生えた男と、椅子に座っている男の足元に一匹の羊がいました。
男はホコリまみれの神様を見つめています。
羊は脚を折り、目を閉じていました。
男が羊に話しかけ、羊が人の言葉で答えました。

「俺ら、間違ってないよな」
「さあ」
「冷たいな」
「おれは、ビネガーと一緒に行くだけだもん」

男は羊に向き合います。
真面目な顔で、でも少しだけ笑って羊に問いかけます。
羊もまた起き上がり、真面目な様子で男に向き合います。

「お前、幸せだったか?」
「おれはビネガーや、好きな人といられたら、それだけで幸せだよ」
「俺といっしょだ、でもほんとにそれだけか?」
「あ、ちがうや、おいしいごはんも」

男がけらけらと笑い、羊を撫でてやりました。
羊も楽しそうに、男にすり寄ります。

「馬鹿熊が死んで、この国がおかしくなった」
「あの人が要だったもん」
「いいやつはどんどん軍の上層部から外された」
「今はお金が、すべてだから」

その言葉に男がため息をつきました。
そして一枚の写真を取り出します。
白黒のぼろぼろの写真、懐かしい友人達が写っています。

「この頃が一番幸せだった」
「ビネガーいっつも笑ってた」
「お前も、まだヒトでいたよな」
「たのしかったから」

前の悪い国王が殺されて、新しい国王が選ばれました。
そしてこの男や幾人かの人間が集まって、新しい国を動かすことになったのです。

「みんなで作った国、俺らが壊しちゃうんだな」
「今の国はもうみんなで作った国じゃないよ」
「そう、かな」
「おれらしかいないよ」

男が、もう一度ため息をつきました。
そして立ち上がって、ホコリまみれの神様に一礼をしました。

「神様、これから俺ら悪いことします」
「だけど、おねがいがあるの」
「きっと空に行くことになるから」
「そこで、大好きなあの人たちに会わせてください」

それだけが、双子の羊の願いでした。
それだけが、双子の羊の幸せでした。




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