部誌6 | ナノ


夢から覚めた夢



ちょっと羽目を外しただけだったんです。
だってずっと行きたかったヘルサレムズ・ロッドに来れたっていうだけでテンションめちゃくちゃ上がるじゃないですか。
三年前のあのニュースを見てからというもの、世間一般では怪奇オタクなんていわれてる身としては行くしかないと決意してから早三年。周囲の反対やら資金問題やら情勢問題その他諸々あって色々大変だったが、周囲の反対を押し切ってやってきましたヘルサレムズ・ロッド!!
歩いても歩いもどこもかしこも人外人外人外!そして稀に見る人間。三歩歩いただけで奇想天外なことが起きる。
まさに聞いた通り!こんな素晴らしい世界が存在していたなんて!!
感動のあまりブロードウェイみたいに歌って踊りたくなってしまう。さすがにやったら不審者だからしないけど。
うん、だからしょうがなかったんだよ。だって夢の国に来れたんだからテンションおかしくなるのって仕方ない。ちょっと気分がハイになってしまっただけなんだ。

「ファンです!!握手してください!!」

だって夢の国だし、いっても許されるかなって思ったんです。まさか憧れの人に会えるなんて思わなかったから、考えるよりも先に手と口が出っちゃんだよ。握手して、それで終わり。なんて軽い気持ちでいってしまった自分を今はぶん殴ってやりたくなる。



「どうだぁい!すごいだろう、僕の今世紀最大の自信作!!」
「す、すごいですねー……」
「すごいのはこれだけじゃない、これにはちょっとした仕掛けがあるんだ!」

そういって嬉々として語りながら目の前の物体(多分生物)を弄り始める。一人で話している男の後ろで自分はただ黙って見ることしかできない。頑張って笑顔を作ってるけれど、口元は引くついている。ごめんなさい、矛盾してるかもしれないが怪奇現象は大好きだけどG18は苦手なんです。今すぐ胃の中のものをマーライオンしたいくらい。

(いやそれよりも、俺なんでここにいるんだろう)

この男のことはよく知っていた。ここに来るまでパソコンで調べに調べて、某オカルトちゃんねるで何度も話題に上がっていた男。遊びと称してヘルサレムズ・ロッドに災厄をもたらす最低最悪の変人奇人。外からすればやることなすこと最早規格外過ぎて都市伝説となっていた男、そう俺は彼に会いたいがためにここまでやってきた。

堕落王フェムト。先程自分が握手を求めた張本人である。

「まさか人間の中に僕のファンがいたなんて!いやあ人間にも見る目がある者がいるなんて中々面白いじゃないか!!ところで君名前は?」
「あ、なまえです……」
「なまえね、モブらしい名前じゃないか。でも僕のファンだから別に気にしてないがね!」
「ありがとう、ございます……」

まるで舞台俳優のごとく演技臭い高笑いを上げるフェムトに苦笑いを浮かべることしかできない。もちろん笑ってなきゃ何されるか分からないから危機感からだ。
さっきまであんなに本人に会えて嬉しかったのに、今は一変して体中が恐怖心で一杯である。あの場で勢いあまっていってしまったあと、意識が失って起きたときには見知らぬ場所にいた。

『僕はファンを大事にするからね、せっかくだから君にここで僕が考えに考えた暇つぶしを一緒に眺めようじゃないか!!』

起きて第一声でいわれた。フェムトの言葉が理解できず、辺りを見渡したら沢山のテレビに映るのは先程まで自分がいたはずのヘルサレムズ・ロッド。ここは自分がいた場所じゃない、すぐに確信した。そして真っ先に浮かんだのが、

もしかして:誘拐

(もしかしなくても誘拐だろ!!!)

「なまえどうかしたのかな?」
「ひっ!な、なんでもないですっ」
「ならいいが、それよりも見てくれたまえ!これを使ったらさすがのライブラのやつらも太刀打ちできまい!」

次は楽しみだ!なんて鼻歌を歌いながらまた作るのを再開する。まるで玩具を弄るかのように生物を弄る姿にぞっとした。どうして自分は今までこんな男に会いたいだなんて思っていたのだろう。今までお花畑だった頭に冷水を一気にぶっかけられた気分だ。夢から覚めた、という表現の方が正しいのかもしれない。
散々行きたい会いたいといっていたくせに、いざ来てみればこのざま。さすがに命の危険の覚悟はしていたが、まさかこんなことになるなんて誰が思うだろう。自分だって思わなかった。

(ああ神様、夢ならどうか覚めてくれ!!)

心の中で神に祈りを捧げて反対の手の甲を抓る。痛覚が手の甲に広がるだけ。
夢から覚めても、夢から逃げられない事実にただ絶望するしか出来なかった。




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