部誌6 | ナノ


傷痕



 微睡の中で開いた瞳の中に映る白いシーツの海がまるでヴェールのようだと思った。

【傷跡】

 薄い布一枚隔てた向こうはきっと目の覚めるような朝日に包まれているだろう、けれどそこを抜け出してしまうには隣に横たわる存在が名残惜しくグリーンゴールドの瞳を眇めたライアンは寝起きに伸びでもするようにその顔に手を伸ばした。
 向き合い伏せられたままの瞼を飾るダークブルーの睫毛は朝の訪れを知らないように閉じたまま、呼吸する度にゆっくりと上下する服を纏わぬ肩だけが安らかな眠りに居る事を伝える。
 頬にかかる睫毛と同じ色の短い髪を指先で掬い上げて流すとつられるようにその顔が上向いて吐息が乱れる、起きるだろうかと見守っているとやがてその横顔は枕に押し付けられて深く溜息を吐いて落ち着いた。
 その様子に口の端に笑みをこぼした顔が視線と同じように指先を滑らせ頬から顎に首筋を通って肩へと至ると一定のリズムを刻むなまえの鼻から少しだけ甘さを含んだ熱が漏れる。
 張り出した肩の輪郭をなぞればそこは少しだけ皮膚の境が盛り上がり、指先に馴染む優しい感触とは違いつるりと丸く滑るケロイド状に変形していた。
 そして自分と同じように対で備わっていたはずの右腕を、目の前の存在はもう持ってはいない。
 見えなくなったその腕を愛おしむように指先を滑らせ丸く引っ張られた皮膚で覆われた断面を添えた指の腹で包むように撫でると、触れる熱が動く度むずがるように跳ねていた呼吸が大きく肺の中に酸素を吸いこむ音が鳴るのとその瞳が開かれるのは同時だった。

「…んっ」

 焦点の合わないコールドブルーを慰めるように瞬く睫毛を見つめながら
Good morning sweetie
そんな言葉の代わりにライアンは損なわれた美しさを持つ腕に口付けた。



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