部誌6 | ナノ


傷痕



私がこの船に乗ってから、どれ位の月日が流れたのだろう。
毎日がとても濃いせいで、もう何年もここにいる様な気になってしまう。
出会いや別れを繰り返すなかで、得たものと失ったものの多さにとても言葉で言い表すことができない。
それ程、ここでの生活に重きを感じ始めていた。

「んっ…!」

ぎしりと軋む関節、火照る身体、漏れる吐息に体調を崩したことは安易に予想出来た。
これといった原因は大して思いつかないが、そう言えばここ数日なんだか怠さを感じていたのを思い出した。
咳こむ感じではないものの、一番困るのは関節が痛むこと。
特に義手の繋ぎ目がギリギリと痛む。

(チョッパーに助けを求めたいが…)

生憎、女部屋には誰もいない。
二人は看板でのんびりしている時間だ。
声を張ったところで届きはしない。
そもそも、大声を出せる気もしない。

(…まあいいか。)

とりあえずそのまま寝てれば誰か様子を見にくるだろう。
ここの船員はお節介ばかりだから。
そして、微睡む意識に流される様に目を閉じた。



次に感じたのは、ひやりとした感触だった。
誰かが、何かを話している。
ぼんやりした意識の中では聞き取れはしないけど、声色が優しいから安心出来る。
長時間同じ姿勢だった為に固まった身体をほぐそうと、寝返りをうとうと身体を動かした。

「い?っ!」
「!」

正にびきりとでも言うかの様な痛みが走る。
寝てしまう前に関節が痛んでいたことを忘れていた。
僅かではあったが予期していなかった痛みに思わず声を上げる。
それに驚いのか、ベッドの側に腰かけていたゾロの目が見開いていた。

「おい、平気か?」
「っ、ん、く。平気、だ。」
「チョッパー呼ぶか?」
「大丈夫。」

ぶっきらぼうではあるが、心配そうに声をかけてくれる彼は優しい人間だと思う。
深呼吸を繰り返し、痛みを和らげてから乾いた喉でゆっくり喋りだした。

「今、何時?」
「夕方だ。みんな飯食ってる。」
「そ、か。君は?」
「飯か?まだだ。お前の様子を見てた。」
「そ、ありがと。」
「あぁ。」

声が掠れて上手く喋れない。
短い会話しか出来ないが、それでも問題なかった。
額に乗せられていた冷えたタオルが心地いい。

「さっき、誰か、いた?」
「さっき?」
「起きる前、声、聞いた。」
「あぁ、ナミだな。お前のこと、心配してた。気付くの遅くなって悪かったってよ。」
「そう、か。」

じゃあ、ナミが私を見つけてくれたのか。
謝ることないのに。
本当に優しい奴らばかりだ。

「…痛むか?」
「少しね。」
「そうか。」

ギリギリと痛みはあるが寝る前に比べて幾らか楽だ。
きっとチョッパーのお陰だろう。
ゾロの視線が自然と義手に向けられてることを知り、苦笑いが零れる。
前にも、痛むか聞かれたことを思い出してそれはより強くなった。

「何笑ってやがる。」
「君、見た目、より、心配性、だから。」
「あ?」
「同じ質問、二回目。」

私の言いたいことに気付いたのか罰悪そうに頭を掻く。
そのまま逃げる様に部屋のドアまで移動してしまった。

「チョッパー呼んでくるわ。」
「ふふ、そうか。」
「…お前、気付いてないかも知らねえけど、目に毒だぞ。」
「?」
「傷、薄く浮かんでてエロい。」
「!?」

扉から出る前ににやりと意地悪そうに笑って言った彼のセリフに慌てて身体を見る。
義手の繋ぎ目から首、胸と広く残る肉芽が熱により艶かしく赤くなっていた。
普通だったら気持ち悪いと思われても良いそれに、思いもしない言葉を投げかけられ、顔が別の意味で赤くなる。

「〜〜〜っ!全く、意地の悪い!」

上がる熱を冷ます為、ぬるくなったタオルを冷やしなおした。





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