部誌5 | ナノ

落日



どうしてこうなったのか。答えは簡単だ。
"力が及ばなかった"。
試合において、結果こそが全て。そして試合において、力こそが全て。弱肉強食。弱ければ食い散らかされ、そこで全てが終わりを告げる。

それが、IH。
俺たちの夏が終わりを告げ、俺たちのリベンジは遂げられなかった。

対桐皇戦。
黄瀬は頑張った。
小堀は頑張った。
森山は頑張った。
早川は頑張った。
中村は頑張った。

笠松は、頑張った。
みんな頑張った。胸を張っても誰も何も言わないし、言わせない、いい試合だった。そう、いい試合だったんだ。

悔しいけど、ここで終わってしまうけど、力が及ばなかったけど、それでも、試合は、いい試合だったんだ。
なら何で俺はこんなにももどかしく感じてる。
なら何で、何で俺は頑張っていないんだ。
俺は、俺はどうしてコートに立っていない…!



「あ、先輩…」
ロッカールームから出てきた黄瀬たちと出くわす。悔しそうな、申し訳なさそうな、そんな顔で見つめられる。そんな顔をされると何も言えなくなる。
「おぅ、お疲れさん」
近くにいた早川の頭を撫でるとその大きな目に涙がたまっていく。
「よく頑張ったな」
その言葉が引き金だったように早川の大きい嗚咽が聞こえてきた。森山は何か言いたそうにしているが、口ごもる。何て言ったらいいのか分からないんだろう。声のかけようがない。小堀がいつも通りにしてくれているのが有り難い。
「みょうじ先輩…」
呼ばれて振り向くと、泣きはしないが顔面全部で悔しいって訴える黄瀬がいる。モデルでもぶさいくな時はあるんだなぁと場違いなことを考えていた。
勢いよく頭を下げる黄瀬に面食らうが、何か言う前に口を開ける。
「お前らはよくやったよ。謝ることなんて何もない。そうだろ?」
俺の言葉に黄瀬が顔をあげて反論しようとするのに、俺は言葉を畳み掛ける。
「それとも何か?お前は全力を出さなかったのか?謝らないといけないほど」
「っ、ち、違う!!!」
「なら、謝る必要なんてねぇよ」
早川を撫でていた手を黄瀬の頭に移動させ、少し力を込めて撫でる。
「小堀、先に戻っててくれ」
「…あぁ、分かった」
もう一度黄瀬を撫でて、ロッカールームへと足を向ける。
後ろで俺を止めようとする黄瀬を小堀と森山が諌めていることは知らなかった。


ロッカールームを開けると笠松が一人、まだユニフォームのままベンチに腰かけていた。入ってきたのが俺だと分かっているらしく、何も言わず俯いたままだった。
「お疲れさん」
「…勝てなかった」
「あぁ」
立ち上がりながら言葉を紡ぐ笠松に、相づちを返す。ロッカーから鞄を取りだそうとするが、力が入っていないのか落とす笠松の側へと近付く。
「……最後、最後だった…!」
ダァン!とロッカーを殴る音が無人のロッカールームに響く。
「負けられなかった!負けることが許される試合じゃなかった!」
叫ぶ声に少しずつ、涙が含まれていくのが分かる。もう一度殴ろうとする笠松の腕を掴み、そのまま抱き込む。
「何で!どうして、負けた…!」
「ごめん、ごめんな…」
自分の声も震えていた。
笠松は自らキャプテンという責務を課した。それは監督に言われはしたものの、笠松自身の覚悟であり、負い目だ。そもそも、笠松が負い目など、本当は感じる必要など有りはしないんだ。だって、そうだろう。
あの時…俺が選手として死んだ、あの試合の時。笠松のミスじゃない。笠松へとパスを出した俺の計算が間違っていた。まさかファール覚悟のブロックが来るとは予想だにしていなかった。俺の計算が狂った。だから、笠松もミスを犯した。俺が、俺がもっと周りを確認していれば、あのミスは起こらなかった。
笠松の、笠松のせいじゃねぇんだよ…

「ごめん、ごめんなぁ…!」
言いたいことはたくさんあった。笠松は頑張ってたよって。俺が悪いんだよって。俺のミスだったのに、選手としてコートに立つことは許されず、何も出来なかった、俺の方こそ。

何も出来ずに、全部笠松に背負わせた形になって、本当に、本当にごめんな

抱き込んだ笠松の涙が俺のジャージに、俺の涙が笠松のユニに、染みを作りあっていく。笠松が何か言っているが、腕の中でということと泣き声とが相まって聞き取れない。聞き取りたくはなかったから丁度よかった。何も言わなくてもいい。笠松は、笠松に全部押し付けてしまった。だから、これは全部俺のエゴなんだ。



その日、俺たちの最後の日は、終わった。



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