部誌5 | ナノ




重そうな空だ、と鈍色の雲を見上げながら思っていると、白い綿毛が落ちてきた。次から次へと落ちてくるそれと、晴れそうにない空を見上げながら、積もりそうだな、と溜息を吐いた。
「……遅い」
立ち止まって雪を見ている貴明に向かって、連れが言う。マフラーに顔を半分埋めて、紺色のダッフルコートのポケットに手を突っ込んだまま貴明を睨みつけている。とても寒そうだ、そうだ雪が降ってきたあたりからぐっと冷え込んだのだから当然か、と思いながら、ハイハイ、と少しいつもより勢い良く地面を蹴った。弾みをつけるように彼より一歩先に足を出すと、いつも一歩前を歩いて自分のペースを守りたがる公洋が早足で貴明を追い越した。
負けず嫌いな様子がおかしくてにやにやと笑いながら、ジャケットの襟に顔を押し込む。公洋は結構聡いところがあるから、下手に笑ったりなんかするとすぐに振り返るのだ。
案の定、ちらりと視線だけど横した公洋から目を逸らしながら、明日、自転車に乗れるだろうか。ドアが開かなくなるほどの積雪なんてことがあるのだろうか、と考えた。
ドアが開かなくなるのは困るが、そこまで積雪するとひょっとしてかまくらが作れるかもしれない。雪だるまなら作ったことがあるが、かまくらはまだ作ったことがないので、多少の興味があった。中は温かいのだろうか。中で鍋が出来るのだろうか。もし中に居て鍋をして溶けて天井が落ちてきたら困るかもしれない。ぼんやりしているうちに、公洋との距離が開いてしまっていて、公洋は振り返って睨みつけている。それに片手を上げて謝りながら、少しだけ駆け足をした。
「……雪で、車がスリップして事故に巻き込まれるかもしれない」
そんな心配症な、と思いながら、いや、公洋にはそうではないのかもしれない、と貴明は少し思い直した。
公洋は少しばかり運が悪い。そんなもので、よく事故に巻き込まれたりなんかということもあるのかもしれない。そう思いながら貴明は公洋にしたがって少し早足になった。
「かまくら、作ったことある?」
「……なにそれ」
もごもごと喋るために出した顔半分をマフラーのなかに押し込みながらくぐもった声で公洋が返事した。
「雪で作って中に入るやつ」
「……それは知ってる」
「なんだ知ってるの。アレって作り方とかあるのかな」
「……知らないし、そこまで積もらないだろ」
「そうなの?」
「みぞれに変わるって、天気予報で言ってたし」
「……それは残念だなぁ」
そう言った貴明に向かって、そう、と、一言公洋は言った。
「……スキー、行く?」
「突然」
「……雪があるだろ」
「かまくら作れる、」
「うん」
それはいいなぁ、と思いながら貴明は公洋の顔をチラリと見る。二人で旅行。それはそれで、ちょっと良いかもしれない。そんなことを思いながら、貴明はいいねぇ、と言って首をすくめた。




prev / next

[ back to top ]


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -