部誌5 | ナノ

箱庭に降る夢



なまえとは産まれたときから一緒だった。すぐ二つ三つ先の近所だったうえ、親同士が仲良かったことからよく遊ぶようになった。
しかし、自分は外で遊ぶのが好きでなまえは家の中で遊ぶの方が好む、対極ともいえるくらい正反対だった。暗い、もやしなんていってはおちょくってはいたけれど、なまえと一緒にいるのは嫌いじゃなかった。そして、なまえもまた同じだった。
そのうち自分がバレーを始め、二人で遊ぶ機会は格段と減ってしまう。それでもなまえの傍は変わらず居心地がよかったから暇さえあれば名前の部屋に通い続けた。

『なあ名前、これなんだ?』
中学に入ってからさらにバレ―漬けの毎日になり、久しぶりになまえの部屋に訪れれたのは入部してから三ヶ月も経った頃だった。久しぶりのなまえの部屋は相変わらず本置いていない。だが、一個だけ見慣れないものがあった。
自分の両手に乗るくらいの中くらいの箱、その中に部屋が存在していた。その部屋に見覚えがあった。いま自分がいるなまえの部屋をそのまま箱の中に移したような、なんとも不思議な箱であった。
気になってなまえに尋ねると、名前は
まるでなまえの部屋を箱の中に閉じ込めたかのように
『じいちゃんが誕生日にくれたんだ。"箱庭"っていうんだって』
『ハコニワぁ?』
聞いたことのない単語に思わず復唱する。
『なんでも箱の中に木とか人形とか置いて見て楽しむんだって』
『へー、なんか女子がやってた人形遊びみたいだな』
昔テレビで見た動物の人形や家具を家の中に置いて行く玩具を思い出す。未だにあんなののどこが楽しいのか分からない。そういうと、なまえは確かに似てるねと笑った。
『でも俺、こういうの嫌いじゃないよ』
『えー、お前女子かよ』
『だって面白いじゃないか、こんな小さな箱の中にこうして部屋を作り上げれちゃうなんてすごいと思うよ』
まるでこの箱の中に閉じ込められたみたいだ。と、自分の手から箱を奪い取ると箱の中を覗きこんで目を細める。その楽しげな様子にいまいち共感を持てなかった。ちゃんと見てみれば家具のディテールはもちろん、本棚の本の名前までしっかりと書かれていた。引くくらいに忠実に再現させたなまえのじいちゃんとそれを楽しそうに眺めるなまえが少し怖く感じた。



部活でレギュラーになってからというもの、余りの忙しさと充実感から少しずつなまえの部屋へと足が遠のいていった。レーが楽しくて仕方がなかったらそこまで気にすることはなく、学校でもあまり話さないからさらになまえとさらに距離が離れていった。
その頃から、名前をおかずに一人で抜くようになる。
家の中ばかりいたなまえは自分とは違って体が細く、とても肌が白かった。抱きしめたら折れてしまいそうな、そんな危うさに心配どころかその体を掻き抱いて、痕を残してやりたいと思うようになったのはいつだろう。まるで猛禽類の如く、 なまえを食べたくて仕方がなかった。
それが恋だと気付いたのは、初めて出来た彼女との初体験をしたあとで戸惑ったけれど なまえなら仕方がないかすぐに納得してしまう。
自分を一番理解してくれてるのはなまえと思っていたし、 なまえを一番理解してるのは自分だと思っている。互いに理解してる相手だから、理想といえば理想の相手ではあったのだ。
なまえへの恋を自覚してから、普段バレーしか考えない頭でどうしたら なまえを物にできるる考えた。まず告白するのが真っ先に浮かぶ。押せば大人しいなまえは頷くのは予想できた。あとで好きになってもらえればいいや、とすぐに実行しようとした矢先―――なまえが自分と同じ梟谷高校に通うのを知った。
自分はバレーで推薦を貰っている。だが、なまえは一般で受けるらしい。元々頭がいいのは知っていたけれど、どうして自分と同じ梟谷へ通うのか。
そこである考えが浮かんだ。もしかして、なまえは自分と一緒の高校に通いたいのではないか。なまえのことを一番理解しているのは自分、だから自分の考えは正しい。その結論に至ったときの興奮は未だ忘れられない。まさかなまえも自分のことが好きだなんて、こんな素晴らしいことはあるだろうか!
いますぐにでもなまえの元へ走って行きたかった。だが、自分と違ってなまえは心配性だから告白なんかしてもセケンテイなんかを気にして断られるかもしれない。ならば、なまえが我慢できず告白するまで待ってやろう。
いつか、自分に思いを告げるその日まで―――



数年ぶりに訪れたなまえの部屋は相変わらず本で埋め尽くされていた。部屋の中を見回すと以前置いてあった箱庭が無くなっていた。

「あの箱庭どうしたんだ?」

思わず尋ねるとなまえは捨てたと答えた。

「なんで」
「だってあんなの置いてあっても邪魔だし……木兎君、お茶ここに置いておくね」

視線を合わせずにテーブルにお茶を置いて自分とは反対側の方に座った。家に行きたいといってからなまえはどこか自分によそよそしかった。そりゃあ話すのは数年ぶりだから仕方がない。けれど、この数年でなまえは変わってしまった。昔はあんなに大事にしていた箱庭を捨ててしまい、昔は光士郎と呼んでくれてたのに、どうしてか今は苗字呼び。けれど自分は知っている、一番なまえを理解してるから。きっと久しぶりだから照れているに違いない。

(そうだ、照れてるんだなまえは。だってこいつは俺のことが好きなんだから……だからきっと、赤葦と付き合ってるのも自分の気を引きたいからに決まってる)

「木兎君?」
「……なんでもね」

今すぐ聞きたかったけれど、まずはなまえが淹れてくれたお茶を飲むためにドアのカギを回した。
まるで、昔見た箱庭のようだと不意に思った。





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