部誌5 | ナノ

箱庭に降る夢



風に帆がはためいて、今日はとても穏やかな航海日和だ。
こんな日には洗濯物を干すに限る。
洗濯物は海に晒されてぱさぱさになりやすいはずなのに、サンジが干すと何故かふんわり柔らかになる。
穏やかすぎて眠くなる。

「眠そうだな。」
「気持ち良くてな、つい。君こそどうなんだ、今日みたいな日こそ寝たいのじゃないのかな?」
「どうかな。逆に目が覚めちまって。」
「ふーん、はは。天邪鬼め。」

甲板の上で寝転がっててうとうとしていたら、いつの間にかめのまえにゾロが立っていた。
見下ろす彼の顔は影に曇り、鋭い眼光が私を獲物として冷たく見下ろしているように見えた。
実際全く眠そうに見えなくて、普段あれだけ眠そうなのにその違いにおかしくって笑えてしまう。
私の国であれだけ血生臭い世界で生きてきた後で、こんな穏やかな日々が過ごせるなんて思いもしなかった。
私は、あそこで死ぬのだと思っていたから。

「痛むか?」
「ん?あぁ少しはね。でもいずれ慣れるさ。」

傍に腰を降ろし、指先で義手の表面を優しくなでる。
これ自体はもう遠の昔に出来たものだから、傷としての痛みはほとんどない。
けれど、私の恩師が最後に残してくれた腕だから。
馴染むまで痛みが出るのは致し方ないことだ。

「この一味はいいな。小気味が良い。」
「そりゃあお前のいた国王とその参謀に比べりゃなぁ。」
「はは!反論できんな!」

にやりと楽しそうに笑う彼に一本とられてしまった。
私がいた革命団もこの一味に匹敵する程度にとても居心地が良かった。
血が通い、肉付けられた家族のように濃い絆。
あぁ、彼らは死んでしまったのだ。
長きにわたる戦いの果てに、希望を、願望を叶えられず。
無念を胸に死した彼らが、今は国におらず、海賊にいる今の私を見たら何を思うだろうか。

「…痛むのか?」
「え?」
「腕を抑えて泣いてる。」
「あ、」

無意識だった。
義手を抑え、涙を流していた私を無骨だが心配しているゾロに言われてやっと気づくなんて。
慌てて涙を拭い笑顔を繕う。

「何だろな、悪い。」
「いや、謝ることじゃないが…無理に笑うことないぞ。」
「…」
「何考えてるか分かんないけどな。答えがでないことをうだうだ考えてもつまらないだけだ。」
「そう、かな」
「そう言う時はな、寝るに限る。」

そう言うと寝転がり、目を瞑ってしまったゾロの姿に思わずきょとんとしてしまう。
不機嫌そうに顔を顰めているが、耳が赤く染まっている。
誰かを励ますなんて柄じゃないのに、無理するから今更恥ずかしいのだろう。

「…ふふ。」
「何だよ。」
「いや?私も寝るか!」

ゾロの隣で同じように寝転がる。
何処までも青い空に、気持ちも晴れやかだ。
このまま眠ってしまおう。
どうせ、今の平和の後に胸躍る冒険が控えているのだから。




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