部誌5 | ナノ

箱庭に降る夢



「人形師?」
「そう、人形師、お前さん良い人誰か知らないかい?」

東の国の中心街にある花街。
広い花街の隅っこにある見世物一座。
そこの入り口で二人の男が立ち話をしていた。

「人形師って何すんの、新しい夜伽の道具にでもするの、人形」
「そんな程度のモンならそこらのでいいさ、アタシが探してんのは腕のいい人形師だよ」
「げえ、高そ」
「いいんだよ、皆を写した人形を作ろうと思ってねぇ」

様々な理由で生きていく場所を失くした子供達が集まる場所。
歌や楽器が上手だったり、そうでなくとも器量の良い子などは表舞台に立ち、それ以外の子供は舞台裏で働いたり楽器の手入れや日常の世話役をしている。
見世物一座で育ち、そのまま大人になっても一座で働く者も居た。
そうした結果、最初は数人だった一座も、今やかなりの大所帯だ。

「で、なんで今さら人形なんて」
「あの小娘が裏方の子にも日の目見させろって五月蠅いんだよ」
「あぁ、嬢ねぇ、裏の子の方が好きな子多いもんね、あの方」
「あの小娘ぐらいだよ、裏の子連れて行くの」

表舞台に立つ子は自らの体を売り金を稼ぐ。
生きていくための悲しい仕事だが、客から見ればこの子達がすべてなのだ。
裏にいる子供達も同じように働いているのに、客はこの子達を下等な者のように扱う。
当然のように、裏の子を買い夜伽をする者はいない。
そのことを彼らの言う"小娘"は酷く嫌った。
知らないだけで、そんなことを言うのは許さないと。
表の子の中には客に本当の子供として拾われて行き、幸せに暮らしている子もいる。
裏の子のことも詳しく知られれば中には客に気に入られる子だっているはずだと。

「それで敷地に入った所に表と裏それぞれの子の人形置こうって言い出してね、確かに器量が悪い子も、心根の歪んじまった子も、何か足りない子もいる、けど、座長のアタシからすれば皆可愛い子供さ、人形だって可愛く作ってやりたいじゃないか」
「そうだな、そもそも座長のお前が器量は微妙だわ性格は悪いわ愛嬌皆無だもんな、お前一等可愛く作ってもらわないと困るもんな」
「器量は余計だよ、愛嬌の無さで売ってんだよアタシは」
「変わったのが好きなお大尽も居たもんだ、嬢も含め」
「皆愛されてるよ、どういう形であれ、ね」
「この花街で、子供が生きていけるってだけで、幸せだからな」

その後、この一座の所有者である"嬢"と呼ばれる者が全面的な資金援助を行い皆の人形が作られた。
人形と共に、それぞれの仕事の持ち場の小さな箱庭も作られた。
どの子供達もとても可愛らしく作られていた。

気付けばもう年の瀬。
この人形達のお披露目を正月に控え、皆それぞれの想いを胸に秘めながら、いつも通りの日々を過ごしている。





prev / next

[ back to top ]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -