部誌5 | ナノ

放課後の教室にて



「好き、なんだ」

下校時間はとっくに過ぎ、誰も居なくなった教室。
開けられた窓の外から運動部の掛け声、吹奏楽部のズレた演奏が聞こえくる。知っている曲だったからどこが間違えているのかすぐに分かった。下手くそ、なんて弾けるわけでもないのにそんな評価を心中吐きしてながら再び目の前の相手に意識を戻した。

「みょうじさんのことが、好きなんだっ」

夕日で真っ赤に染まった教室には私ともう一人、同じクラスの橘君しかいない。橘君は夕日に負けないくらい真っ赤な顔でこちらを見つめていた。まるで林檎みたいと場違いなことを考える。
今日は用事もないからと教室で1人本を読んで時間を潰していた。そんなときに、橘君が忘れ物を取りに入ってきたのだ。軽く挨拶を交わし、そろそろ帰るかと立ち上がったら呼び止められ……現在に至る。
青天の霹靂。以前授業で習ったことわざをまさかここで使う羽目になるとは思いもしなかった。いっておくがこんなことを考えていないと冷静を保てないくらい戸惑っているのだ。それぐらい驚いている。
だってあの橘君なのだ。
おっとりとした風貌のくせに水泳部の部長と中々のギャップの持ち主。誰にでも優しい彼は密かに女子の間で人気となっているのを本人は多分気付いていない。
そんな橘君からの告白なんて誰が予想できただろうか。
そんな橘君はというとずっと黙っている私に 眉を八の字にして今にも泣きそうな顔でこちらを見ている。

「ご、ごめんっ……いきなりいわれても困るよね」
「……橘君」
「な、なに?」
「私の勘違いでなければ」

橘君は七瀬君と付き合ってるはずよね?
瞬間、橘君の時間が止まった。橘君が固まってしまったことにより、教室内が無音となる。
石になったかのように硬直してしまった橘君の様子に今更になって失言だったと気づいて手を合わせて謝った。

「あ、ごめんもしかして言わない方がよかった?」
「ま、待って!なんでそこでハルが出てくるの!?」
「え、だって付き合ってるでしょ?」
「誰が!?」
「だから橘君が」
「誰と!?」
「七瀬君と」

おかしなことをいったのかと思ったが、橘君は橘君でぱくぱくと金魚みたいに口を開閉させている。あんまり見ないマヌケ顔でちょっと面白かった。

「な、なんでハルと俺がっ」
「橘君と七瀬君登校から下校までいつも一緒だし、橘君いつも七瀬君呼んでるでしょ?幼馴染みでもさすがにべったりしすぎだから、付き合ってるんだなって……もし秘密にしてるんなら大丈夫、私いわないから!」
「えっ、えっ?」
「でも橘君、確かに七瀬君のことが大事なのは分かるけど彼女作ってカモフラージュしようとするのはどうかと思うよ。告白した相手が私だからよかったけど、もしほかの女子だったら傷つけてたんだからね。橘君も七瀬君もお互いしか見えてなくても君達女子に人気なんだから……」
「……」
「好きな相手に告白されたと思ってまさかの隠れ蓑にされたなんて知ったら男性恐怖症になってもおかしく……って橘君何泣いてるの!?」




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