部誌5 | ナノ

そう言って君は、



空が白んできた。
もうすぐ夜明け。
お日様が出来きったら彼の負け。

「もう、無理かな」

最初待っていた森から幾度か場所を変え、今は一番見つけやすいであろう里の中。
最後はここにしようと決めていた、大切な思い出の場所。
でもここはきっと、彼も早い段階で探しているはず。
そう何度も探しにはこないだろう。

「どこ探してるんだろ」

無数の森や洞窟があるこの島。
お互い動き回っていれば出会う確率は少ない。
それでも出会う時は出会う。
昔まだこの島に住んでいた頃、意図せず何度も島のあちこちで同じ人に遭遇するという事もあったのだ。
そんな偶然が、あることを信じていたけれど。

「神様はそう甘くないかな」

里の長の家だった小屋の入り口に座り彼を待つ。
もう逃げる事はしない。
見つかったら良し、見つからなければそのままこの小屋に住み着こう。
小屋の正面には里のすべてを見渡せる見張り台があり、その向こうにはお日様が見える。
すでにお日様は半分ぐらい姿を見せていた。

「これはもう、タイムアップかぁ」

諦めて小屋の中を散策しようと立ちあがったその時だった。


「こぉぉぉぉこで会ったが地獄の三丁目ぇぇぇぇ!!孤独の竜の子よ!この我と共に人生という名の愛の道を共に歩もうではないかっ!」


里に響きわたる聞き慣れたそして聞きたかった声。
その声の元は見張り台の屋根の上、現在ちょうどお日様の真ん中、そこに見える人影。
それはさっきまで会いたくて会いたくてぷるぷるしてしまうほど会いたくて仕方がなかった愛しい彼の姿。
声が聞こえたのはお日様が出きってしまう前だった。
彼は間に合った、ふたりの家にふたりで帰ることが出来る、そうは思いつつもパニックになった頭は拒否反応しか起こらない。

「何だかすっごく会いたくない!目そらしたい!そらしていいかな!?」
「そらして良いけどちょっと後で降りるの手伝って欲しいぜマイハニー!!」
「一生そこで叫んでろ馬鹿野郎!!」
「一生は困る!一晩がやっとだと思う!!」

本当にあいつは馬鹿だと思った。
こんな時ですらあんなくだらない事を大真面目にやらかすのだ。
本当にくだらない、今時子供でもやらなさそうなあんな事。
そう思うのに、混乱していた頭は少しずつ落ち着きを取り戻してきて。

「ほんと、だめかとおもった」
「だろうね、俺の声聞いた瞬間は凄いほっとしてたよね」
「まさ、か、あぁくるとはおもわなかったけど」
「照れ隠しと思ってよ」

こっちの方が恥ずかしいだろうと思いながら、ちゃんと自分で降りてこっちに向かってくる彼を見つめる。
ぼろぼろと涙が溢れてきて、望んでいたせっかくのこの光景がよく見えない。
小屋の前までやってきた彼は、とても優しい表情で言う。

「さ」
「・・・うん」
「一緒におうち、帰ろう」
「うんっ・・・」

彼が大きく広げた腕の中に、私は勢いよく飛び込んだ。




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