部誌5 | ナノ

そんなお前が、



「私の好きなものが何か、知っていますか」
宗像礼司は机の上に両肘をついて、手を組み、その上に顎を乗せて楽しげに聞いた。みょうじはそれに何か答えなくてはならないと、必死に頭のなかに検索をかけた。
「……あんこ、とか、ですかね」
「……それは私の好きなものではありませんね」
宗像は神妙な面持ちで答えた。確かに、あんこは淡島さんの好きなものだ、とみょうじは思った。
「……答えは、なんなのですか」
みょうじは言ってから、後悔した。いつだって、みょうじは性急に答えを求めすぎる、と言われるのだ。もう少し自分で考えろと。体を動かすのはいい。特に戦闘なんかは、みょうじみたいに勘で動いたってなんとかなるものだ。それどころか、天性の才能なんて言われたりする。
そんなみょうじにとって、セプター4は天職だったはずなのだが、この、東京法務局戸籍課第四分室の室長の目の前に出ると少々具合が悪かったりする。
何しろ、彼は事あるごとにみょうじに何らかの質問をふっかけるのだ。そして、大抵その答えを考えることがみょうじにとっては難しかった。
宗像はみょうじの言葉に、鷹揚に頷きながら、ふっと笑う。
「目の前に居ますよ」
みょうじは、宗像の視線を追って振り返る。それから前を見て、そうか、宗像の目の前にいるのではなく、みょうじの目の前に居るという意味か、と理解し、宗像の好きなモノは宗像礼司自身だと解釈して、頷いた。
はあ、と大きな溜息を吐いた。静かな室内に、大きな溜息は大きく響いて、それを聞いたみょうじは縮み上がった。彼の、こんなにわざとらしくて大きな溜息は聞いたことがなかった。彼はいつだってよそよそしいくらいに平静で、感情を表に出すことが滅多にない。だから、そんなにも失望させてしまったのかと、そう思いながら、みょうじはびくびくと宗像の顔を見た。
普通に考えれば、なんでこんなことで失望されなければならないんだ、とみょうじだって思うはずだが、しかし、みょうじにとって宗像という人間は特別だった。
彼が青の王だから、というわけではない。みょうじが、宗像礼司という人間を、まるで神のように崇め、尊敬しているからだった。
「多分、きみはわかっていないと思うから言っておきますが」
「……はい」
姿勢を正して、みょうじは宗像の顔を、これまで以上に真剣な表情で、見つめる。
「さっきのは、愛の告白というものなんですが」
「……は、ぁ?」
パズルのピースが、うまく嵌っていかない。宗像の得意なパズル。彼が使うのは柄のない真っ白なパズルだ。それを、ぱちぱちと事も無げに机に並べていって、それで、そのパズルは完成してしまう。その様子が、みょうじは不思議でならなかった。柄のあるパズルだって、みょうじにはどうにもならない。まさに今、この状態のように。何を言っているんだろうこの人は、と思いながら、みょうじは首を傾げた。宗像はふっと笑うと、仕方ない人ですね、と言って、それからみょうじに向かって目を細めて微笑んだ。
その顔が、あまりにも綺麗で、みょうじは金縛りにあったように動けなくなってしまった。




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