部誌5 | ナノ

いつまでも一緒に



おおもり山の中を、目の前の少女は疲れた様子もなく駆けていく。
いつものように、少女の後ろを私はついていく。
まだ幼いこの少女と、私はともだちだ。

「オロチ!頂上についたらお茶しようね!」
「あぁ」

振り返りながら私に笑いかけてくる少女に少しだけ胸が苦しくなる。
つい先日、同じく少女のともだちのフユニャンという猫妖怪と話した事を思い出したから。
あの猫と、ともだちだった少年との悲しい話を。

「オロチ、どうしたの?ほら行くよ!」

また、少女は笑いながら駆けていく。
私と少女の思い出の場所へ。

「ねぇオロチ、今日オロチ少し変だよ?」
「・・・」

頂上のベンチに二人で腰掛ける。
彼女はいつも私に茶を分けてくれる。
ともだちだから当然だよと彼女は言うが、不思議な気分だ。

「ねぇオロチ、何か悩みとかあるなら言ってよ?ともだちでしょ?」
「・・・あぁ」

屈託なく笑うこの少女も、いつかはあの少年のように。
そう思った時、また胸がぎゅうと苦しくなる。
思わず私は、少女を抱きしめていた。

「お、おろち!おろち!どどどどうしたの!」
「・・・フミ、お前もいつかはいなくなるんだな」
「えっ」
「フミアキという少年と同じように、年老いて、いなくなる」

意味がわからないといった風の少女。
幼い彼女には、まだ己の死というものの実感が湧かないのだろう。
遠い遠い、想像もつかない未来の話なのだろう。
人間にとってはそうなのかもしれない。
けれど私たち妖怪にとって、人間の一生など短いものだ。
そして、私たち妖怪の生は、とてつもなく長い。
今は、何者かの力によって永遠の夏が生み出されている。
しかしこの少女とともだちの力により、それはいつか、終わる。

「た、たしかにいつかはおばあちゃんになっちゃうのかもしれないけど・・・」
「そしてその先、お前は消えるんだな」
「・・・オロチ」
「・・・」

抱き付いたままの私をあやしているつもりなのか、頭をなでてくる彼女。
幼い少女とは思えない、優しい声色で話しかけてきた。

「私がおばあちゃんになって、いなくなっちゃっても、オロチはずっとともだちだよ」
「そんなことは、わかっている」
「じゃあ」
「でも、隣にフミは、いない」

これではまるきり駄々っ子だ。
けれども私は感情の波を抑えられない。
決して避けることの出来ない事とわかっていても。
困り果てた様子の彼女が、何やら考え込んでいる。
その間も、私は彼女を失う恐怖心に襲われ、彼女から離れられずにいた。

「わかった!」
「?」
「私が妖怪になっちゃえばいいんだよ!」
「は?」

何を言い出すのかと思えば。
妖怪にそうそうたやすくなれるものか。
いや、たやすくなってしまった妖怪もいないわけではないが。

「ほら!セミとかカブトムシとか、すっごく大事にされた子って妖怪になるでしょ!だからあれとおんなじになればいいの!」
「・・・つまり?」
「だから!オロチが私をとってもとってもとーっても!大事にすればいいの!そうしたら私も絶対妖怪になれるよ!」

あきれて物も言えない。
彼女の言いたいことはわかるが、やはりそんなに簡単に人間が妖怪になってたまるか。
そうは思いつつ、彼女のその言葉にほんの少し、胸の苦しさが取れていることに気付く。

「ね、すごい名案!そうしたらずっと一緒にいられるよ!」
「・・・ふふ、そう、だな」
「私が人間の間も妖怪になっても、ずっと一緒だからね、よろしくねオロチ!」
「あぁ、よろしくな、フミ」

本当に妖怪になれるかなんてわからないけれど。
悲しみと憎しみで人間から妖怪になったものがいる。
ならば、喜びと愛しさで妖怪にだって、なれるのかもしれない。
それを願って、この愛しい少女のともだちとして私は存在しよう。
そして精一杯、彼女を愛でてやろう。

いつまでも彼女と一緒にいるために。




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