部誌5 | ナノ

ハリネズミのジレンマ



動物として生まれたからには、最終的に伴侶をもち、子供をもうけるものだと言われている。
種族を途切れさせない為に、遺伝子を残すため。
僕には縁のない話だ。

「恭弥様。」
「君、いたの。」
「まぁ、貴方の部下ですから。」

血と火薬の匂いが立ち込める戦場に響く少しのんびりした声。
昂ぶった気持ちに水を刺されたみたいであからさまに機嫌悪く応えても、なまえは気にもとめずに微笑を浮かべていた。
そこらの草食動物と違って簡単に壊れない彼女と出会ったのも、今日みたいな風の強い日だった。

「雑魚は逃がすこと無く始末しました。」
「そう。」
「ターゲットも無事倒されたようで…お疲れ様でした。」

動きやすそうな黒のスーツ。
けれどスカートにヒールなんて戦いにくそうだから結局意味がない。
何度言っても、言うことを聞かない奴だ。
女を守りたいのか知らないが、命を守るのに邪魔でしかない。
実際よく怪我をするし、早死にすると思ってる。

「僕が負けると思ってるの?」
「いーえ、貴方は死なないですよ。」
「当たり前すぎてつまらない答えだね、0点。」

トンファーで頭を殴りつける。
頭蓋骨に当たる鈍い感触が伝わってきた。
なまえは勢いよく倒れたが、すぐに起き上がって少し苦笑いを浮かべた。

「痛いじゃないですか。」
「当たり前でしょ。殴ったんだから。」
「死なない身体でも、痛いのは嫌なんですからね?それに下手に血を流して貴方に触れでもしたらどうするんです。」
「僕がそんなヘマすると思ってるの?」
「しませんね。」
「…0点。」

殴られた場所をさすりながら近づくなまえはつくづく化け物だ。
僕の中にある本能が危険信号を鳴らす。
けれどこれほど面白い獲物がいないのも確かで。
とりあえず、へらへらしているなまえの腹に向かってトンファーを振るった。


彼女を見つけたのはたまたまだった。
ボンゴレに仇す者がいるとかで潰したファミリーの地下に封じられていた。
もとはとある有名な暗殺一族の末裔とかで、その体質を強化するのに色々実験されてたとかなんとか。
とりあえず、言えるのは死なない身体と言うことだ。
見た目は30近くなのに、実際は100を超えてるらしい。
身体的に成長はあっても衰えることが死への歩みとかで、身体の細胞がそれを望まないとかなんとか。
難しいことはどーでもいいが、彼女は僕らに見つかった。
行き先もなければ、身寄りのない彼女は最初無人島に行くとか言ってたが、それを僕が許さなかった。
だって死なないなんて、そんな夢物語信じる訳ないじゃないか。
生命には必ず死が訪れる、それが摂理だ。
だから彼女は頭のイカれた奴で、可哀想な子なんだと思った。
…それが傍に置いた理由じゃないけれど。

「ねぇ恭弥様。」
「何。」
「早く私を殺してくださいね?」

うっとりと恍惚な表情で僕を見つめるなまえの姿に胸がざわつく。
加虐心と被虐心。
それが共鳴しあって僕らはいる。
彼女は死にたいのだ。
長く生きた人生に終止符を打ちたくて、強い者を求めてる。
僕は痛めつけたいのだ。
丈夫に出来てて中々壊れない玩具が欲しくて求めてる。
それがこの歪んだ関係となっている。
けれど、誤算が生まれた。

「愛してるよ、なまえ。」
「愛してますよ、恭弥。」

手を強く握り、瞳を閉じる。
何時からか、お互いに愛着が湧いてしまって、それが本当の愛に変わってしまった。
お互いが望む欲望と、それを拒むかのように育まれる愛。
そんな矛盾した感情が僕らを揺らがせていた。

「恭弥様、私を置いて逝かないで下さいね。私を終わらすのは、貴方なんですから。」
「…勿論だよ。」

少し冷たいなまえの手が微かに震えている。
長く生きて、失うことの怖さを知ったからだ。
そういう僕の手も震えていないだろうか。
壊したいのに愛しくて、失うのが怖い。
そんな感情知ることなんてないと思ってたのに。
本当、厄介な人生だ。




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