そんなお前が、
雪と雲で白く染まる世界。
そこは神様の住む世界と言われていた。
広い広い雪原の中に住む神様、真っ黒な体をした大きな大きな竜の神様。
その神様がこの雪原にたったひとりで住んでいると。
雪原の中にぽつりと小さな家があった。
煙突からは煙が上がり、窓からは暖かそうな光が漏れている。
その家に向かい、ひとりの男が歩いていた。
真っ黒なぼさぼさの髪に無精髭を生やした青白い顔。
全身真っ黒の服を着、手にはたくさんの薪を持っていた。
家に着くと、自分の背と同じ高さの扉をノックする。
しばらくすると扉がゆっくりと開かれ、中から子供が現れた。
「ルイス!おかえりなさい!」
「ただいま」
はちみつ色のくせっ毛と瞳を持つかわいらしい子供。
帰ってきたその男をうれしそうに招き入れる。
ひどく冷たい外の広い世界とは真逆の暖かい小さい家。
この家で二人は静かに日々を送っていた。
「グロウ、今日はお風呂に入れるよ」
「本当?ルイスも一緒?」
「・・・そうだね、一緒に入ろうか」
「うれしい!」
手に入れてきた薪を使い湯を沸かす。
薪は非常に貴重なため、沸かす湯は出来るだけ少なくする。
体の大きいルイスが入れば自然と湯量が増すため問題はない。
狭い湯船に二人で仲良く浸かる。
「・・・・」
「どうしたの?」
グロウをじっと見つめるルイス。
ちょうど十年前にとある事情でグロウと暮らす事になったのだが、当時はまだ赤子だったグロウも大きくなった。
ふくふくとしてきた体とわずかに膨らんでいる乳房。
少しずつ子供から大人へと成長している様子が見て取れる。
グロウには性別というものを教えていなかった。
それは彼らには必要のないものだったから。
形が違うのは当たり前のこと、個体差だと教えている。
万が一、ルイスとグロウが結ばれてしまうことがないように。
けれどこれではもうすぐ、本当のことを教えることになるだろう。
そうなったら、一緒に暮らすことは出来なくなる。
「グロウ」
「ん?」
「お前が、俺と同じ形をしていれば良かったのに」
「・・・?よくわからないけれど、形が違ってもルイスのこと大好き、ルイスと一緒にいるととてもどきどきして幸せ」
それがいけないことなのだと、ルイスは苦々しく思った。
ただの同居人として過ごさなければ一緒にはいられない。
それなのに、グロウは少しずつその殻を破ろうとしている。
いや、すでに意識下では殻を破ってしまっているのだ。
そして誰にも止められない体の成長がそれを物語っていた。
「まだ、子供でいてくれると思っていたんだがな」
「ルイス?」
「そろそろ出ようか、のぼせてしまうよ」
「・・・わかった」
彼女がずっとずっと子供のままであればと願っていたルイス。
叶わない願いだと理解していても、ずっと願っていた。
「さようなら、俺の愛しい同居人さん」
「・・・ルイス、何か言った?」
そうやって無邪気に笑うお前が、大好きだった。
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