部誌5 | ナノ

花ひらくように、きみは



彼が友であることも、男であることも分かっている。
けれど、自分の奥底に潜む良く分からない何かが時折顔を出すのに抑えられないのだ。
しかも厄介なことに、それを彼が受け入れているから余計話がややこしくなっている。

「貴方たちは何をしてるんですか。」
「あぁ鬼灯、最近は良く会うなぁ。」
「はーなーせーっ!!」

仕事で不喜所まで歩いていたら、なまえと馬鹿が何故か道端でプロレスをしていた。
のんびりと返事をしたなまえのコブラツイストがなかなかいいかけ具具合で、馬鹿は瀕死状態だった。

「いやね、白擇様が約束してたものを忘れてきたからちょっと頭にきてよ。」
「約束のもの?」
「リリス様に会いにお忍びでEUに行くって聞いて、向こうで人気のお菓子を頼んでたんだよ。そしたら渡したお土産代全部女の子に貢いだんだと!」
「いてて…、仕方ないだろ?お金女の子に払わす訳にいかないし、またまた手持ちにあっちゃったんだから。それにお金はちゃんと返しただろっ!」
「そういう問題じゃないんです!俺の部下達の分だから絶対忘れないで下さいって言ったじゃないっすか!」
「あ、あれー?そうだったかなー?」
「……ゴミくずが。」
「聞こえてんだよ唐変木!」

どうにか技から逃れた屑がへらへら笑っているのに腹がたって、とりあえず腹に一発拳を入れた。
なまえは本当に困ってるようでしゃがみ込んで小さくなっていた。
栗色の、少し長い襟足からのぞく首筋に見える数本の筋状のかさぶたに、どくりと心臓が一度大きくなる。
人差し指でそこをわざとゆっくり上から下へ撫で付けるが、それにも反応しない位落ち込んでいるらしい。
つまらないと思った。

「悪かったって。EUのお菓子は今からは無理だけど、穴場のお店教えてあげるから勘弁してよ。」
「………。」
「おーい、なまえったら。」

ぴくりともしないなまえに流石にまずいと思ったのか、どうにか声をかける屑だがそれでも変わらない。
痺れを切らしたのか、無造作に頭を撫で始めたそいつの手に全身の血がかぁっと熱くなった。

「うおっ?!」

気づいたら馬鹿屑の手を荒く払いのけて隙だらけだった胸元を掴み、近くの木へとぶん投げていた。
受け身をとるまでもなく、激突したそれは気を失っていたがそんなのどうでも良かった。
未だ足元で丸まっている彼の頭を軽くはたく。
小さく震えている肩の意味することなんて、長い間一緒にいたからとっくに気付いていた。

「何時まで拗ねてるふりしてるんです。笑ってるのもろばれですよ。」
「ふくくっ…、いや、白擇様をからかうのは面白くてよ。」

にやにや意地悪く笑いながら立ち上がったなまえは伸びてる馬鹿に目をやった。

「しかしやりすぎだろ。」
「そいつが悪い。」
「否定はしねーけどさ、一応歳上なんだし労ってやれよな。」
「労わる?…………っは!」
「鼻で笑うなよなぁ。」

困ったように笑い、歩き出した彼の横を共に歩く。
半頭身ほど低い彼にはこの道はどう見えるのだろうか。

「しかしお前首筋触んなよな!反応しそうになったじゃねーか。」
「何だ、我慢してたんですか?」
「かさぶたを撫でるとか、狙ってただろ?」
「…さぁ、どうだか。」

誤魔化すふりしてちらりと視線を寄越す。
その意味するものなんてどうせ彼なら言わずとも気づく何て知ってるから。
あぁ、本当なんなんだこの得体の知れない感情は。
その答えはずっと分からないままだが今は取り敢えず。

「なぁ、楽しいコトしようや。」

肌蹴た前掛けから覗くこの前残した微かな充血痕に、ギラギラした目。
雰囲気をまるで変えたなまえの甘い誘惑に乗ってやろう。
隙あらば開こうとする彼の欲望の花を、いや彼自身を譲るつもりなんて毛頭ないから。




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