部誌5 | ナノ

ロケット花火



「そんじゃまぁ、みんなお疲れっしたァー!」
「「お疲れっしたァー!」」

大地の音頭に合わせて皆自分の持つジュースを空へ高々と掲げた。
俺らは未成年だからこんな時はジュースしか飲めないけど、大人が挙って飲むビールはきっととても美味しいものなんだろう、なんてふと思った。
夏休みが終わる最後の練習日。
明日からはまた授業のあとからにしか出来なくなってしまうから。
その有意義な時間が終わってしまう悲しさと、夏を乗り切ったことへの誇り、明日への切り替えに打ち上げすることになった。
打ち上げと言っても、ただジュースを飲んで、先生とコーチが用意してくれたご馳走を食べる位だけど。
それでもとても楽しく思えるのは、俺も浮かれているからだ。

「遅くなりましたー。」
「おっ、なまえ来たか!お前も食えよ!」
「あー、俺軽く摘まんで来たからいいです。それより、じゃーんっ」
「うおおおお花火じゃねースかっ」
「夏の締めはこれっしょー。」

ビニール袋を沢山抱えてやってきたなまえは袋の中から花火を取り出して得意げに笑った。
田中や西宮、日向の目が子供のように輝く。
袋の影で見えなかった青いバケツには火消しようの水が入ってて、準備は万全みたいだ。

「うーん、校内での花火はマズいかな?」
「「えぇー駄目なの」」
「先生いるから平気かと思ったんですけど…駄目ですかね?」
「…片付けを綺麗にして、周りに言いふらさないなら特別に許可しよう」
「「!ぃやったーー」」

武田先生の一言に一憂一気して、皆思い思いの花火を手に取る。
捻くれ者の月島も、山口に急かされながらなんだかんだ楽しそうな顔して花火を選んでる。
俺もお祭りメンバーに良いの取られる前に、良さそうなものを取っておこう。

「あれ?なまえは選ばないの?」
「んーまぁな。」

皆から少し離れて、薄暗い中、見慣れた背中が丸くなってるのが見えた。
何か作業をしてるのか、ごそごそしてるが光源を背にしてるせいで良く見えない。
なんだか気になって、近づいてみた。

「よしっ!考支!」
「わぁな、何」
「走れっ」

急に立ち上がって振り向いたなまえに驚いていたら強く腕を引かれて走りだしていた。
何だかわからないけど、楽しそうな横顔が何時もより幼くて、何故かキラキラ輝いて見えた。

「皆ー!花火が上がるぞー!」
「「おおおおおおっ」」

パチパチバチバチ。
後ろの方で炎の爆ぜる音がする。
橙の光を肩越しに見ながら、手を引かれて皆の元へと走り続ける。
その瞬間が、とても不思議な心地にとらわれていて、夢を見ているようだった。
けれど、強く強く俺を引く腕と、その腕の先にある背中だけは何故か現実的で。
振り返ったなまえの目には爆ぜる橙の光が写って見えた。

「綺麗だな、考支!」
「…そうだな。」

綺麗すぎて真っ直ぐに笑うお前のその笑顔が、とても眩しく見えるよ。




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