部誌5 | ナノ

ロケット花火



広い広い青い海。
全方位を見渡しても空と海しか見えないその場所に、二つの大きな帆船が浮かんでいる。
そしてその帆船を囲むように小船が浮かんでいた。
両帆船とそれぞれの小船は旗の色が二種類あった。
白地に青の十字と赤字に白の十字の旗だった。
ちなみに現在、火薬を利用した様々な兵器や連絡手段の訓練中だった。

「今年のこっちの新兵・・・火薬の扱いへったくそだな・・・」
「座学大好きな連中だったから実技は全般に散々だよ」

白旗の帆船にいる二人の男、ディルクとウィル。
質素な作業着を着てはいたが、他の男たちが忙しそうに仕事をしている中のんきに周りを眺めている事を思うとどうやら上位の階級の人間らしかった。

「あっちはどうなのあっちは」
「似たり寄ったりだけどね、あの娘がいる分士気が高い」
「使えねぇー・・・」
「まぁまぁ、育てたらなんとかなるはずだから」

そんな会話をしながらしばらく訓練の様子を眺めていた。
しかしだんだんと新兵達の出来の悪さに怒りがこみ上げてきた。
これはもう我慢ならんとディルクが怒鳴ろうとした時だった。
赤旗の帆船から、何かがこちらに向かって飛んできている。
凄い勢いで飛んできているそれは小型のロケットだった。
普段は鎖など紐状のものをつけて飛ばして救助活動に使ったりするのだが。
やや大きい音を響かせそれは甲板にぶつかった。

「・・・・」
「おや手紙」

ロケットにくくりつけられた手紙をディルクにも見えるようにウィルが開く。
そこには見慣れた字で一言だけ書かれていた。

『白軍のへたくそ』

向こうの船の指揮官、ディルクとウィルの同僚からの手紙だった。
心なしか、その手紙の字は楽しそうに見える。

「ッテメェらもだろうがぁぁぁぁ!」

ディルクは叫びながら自分の船のロケットを準備し手紙をつけて打ち返す。
手紙の中身は似たようなものだ。
するとまた向こうからロケットが飛んでくる。
今度は手紙はついていないが、ロケット本体に落書きがされているのがかろうじてわかる。
となればディルクもまたやりかえさないわけには行かなかった。

「新兵もいつかはこのくらいの精度を身につけてもらわないとねぇ・・・」
「当たり前だ!救助の時にゃ特に精度が必要なんだ、徹底的にしごく!」
「と、いうかねディルク、そろそろやめにしないと甲板が酷いことに」
「あーあーはいはい適当にね、やめるけどね!!」

結局お互いに打ち合いを続け甲板はなかなか大変な事になってしまった。
今日ここには来ていないこの海軍の長に叱られるのは目に見えている。
それでもディルクは満足気だった、たぶん一番怒られるのはこの男なのだが。
そんな彼を見て、ウィルは呆れながらも楽しそうだった。

「何て、言い訳するの」
「新兵の癒しになればと花火を打ち上げておりましたって言う」
「・・・ロケット、花火?」
「あ、それいい、ロケット花火上げてましたって言う、楽しかったですっていう」

二人はとても楽しそうに笑っていた。
周りの人間達は生きた心地がしないという顔をしていたけれども。
それでもそれはいつものこと、それがこの軍だった。

「・・・めっちゃ、怒るだろうな、あいつ」
「反省しなさい」




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