星に願いを
家に帰り玄関の戸を開けようとして、何かが戸に引っかかった。
ぐい、と少し力を入れてみるも完全には開きそうにない。
人ひとりなら無理矢理入ることも出来そうだが、車椅子が入る幅ではない。
これは仕方がないと思い切り力をこめようとした時。
「吉継さん!吉継さん!あんまりぐいぐいしちゃだめですー!」
中から焦りと少しの怒気がこもった声。
押すなと言われても、これでは家に入ることすら出来ない。
そもそも一体何が引っかかっているのやら。
「主、一体何を置いておる、これでは出入りが出来ぬではないか」
「ふふふー!なんとなんと!どーん!」
そう言って戸の隙間からがさりと出してきたのは大きな笹。
それはそれは、でっかいでっかい笹でした。
こんなものを一体どこから手に入れてきたのやら。
「まぁ、詳しい事は後で良い、入れやれ」
「はーい!」
結局玄関からは入れず、寝室横の縁側から入ることになった。
「して、この笹の入手元と目的は何ぞ」
「はい!もうすぐ七夕ですねって、笹にお願い事したら楽しそうですねってお話したら、ご近所のおじさんが届けてくれました!」
呆れて言葉も出なかった。
子供のいる家ならまだしも、この家は自分達夫婦のみだ。
わざわざ笹を手に入れてまで七夕を祝う事などする歳でもない。
この娘はいきなり何をし始めるかわからないのは知っていたが。
「それに吉継さん、星見るの好きって言ってませんでした?」
「は」
一瞬、心臓が止まったように感じた。
こやつは昔、我が星見が好きと勘違いしていたが。
それはこちらに来てからは一度も口にしていない。
こやつの記憶は何も残っていないはずなのに。
「ん?おや?違いましたっけ?」
「ヒヒッ、はてさて」
「んーまぁいっか!吉継さん!七夕飾り作りましょう!」
「・・・あいな」
笹が手に入った時に買ったという折り紙。
短冊やら星やら天の川やら。
たくさんの飾りを作っていく。
これを二人で使ってしまうとはなんとも業の強い。
そうは思ったが、こやつの願いなど小さなものだ。
「吉継さんとーずっとずっと一緒にいられますようにー」
「そうよなぁ・・・朝寝坊が毎日出来ますように、かのー」
「んまっ!吉継さんそれ、だめだめです!」
「む、至極ささやかな願いであろ」
昔々は人の不幸など願ったものだ。
それを今はこのようなくだらない冗談を言い笑いあえる。
なんと幸せなことだろうか。
この幸せがずっと続けばよいものを。
「あっ!あとあと吉継さんがパソコン使うようになりますように!」
「何ぞそれは!我はあのようなややこしいものは好かぬというに!」
この娘と未来永劫、生きていくことが出来ればよいものを。
いつの間にか現れていた星達にそっと、願った。
prev / next