部誌4 | ナノ


そうしてきみはわらった



「鬼灯が笑ってるとこが見たい、だぁ?」

昼食もすみ、午後の仕事が始まるまでどのように暇をつぶすか考えていた時だった。
かの有名な桃太郎のお供をしていたシロ、柿助、ルリオの三匹が声をかけてきた。
しかも突拍子もなく。

「いや…つうか何で俺だし。」
「前に鬼灯様が獄卒時代に一緒に仕事をしてた友達がいるって言ってたから探した!」
「うん、まぁそうだけど…よく見つけたね。」
「お香さんが教えてくれたんですよ。」
「あぁお香が、ね。」

少し大きくて白い塊が突っ込んできたと思ったら急に質問してくるし。
シロは少し前に地獄ドキュメントの密着取材でテレビで見たことあるけど、まぁ…うん予想以上にバカ犬っぽいなぁ。
後から遅れてきた柿助とルリオが常識人だから余計そう見える。

「て言うかまだちゃんと挨拶してないだろお前ら。」
「あ!そうか!俺シロって言います!」
「柿助っす。」
「ルリオです。」
「はいどうも。」

社会人として挨拶は大事だからな。
幾ら部署が違くたってそこはちゃんとせにゃあね。

「それで何で鬼灯を笑わせたいわけ?」
「鬼灯様っていっつも無精面で愛想笑いもしてないなって話になって。」
「一度でいいから見てみたい!」
「まぁ色々考えたんですけどいい案なくって…昔のこととか知ってる人だったら笑いのツボとか分かるかな、と。」
「ふーん、でも昔の知り合いなんて他にもいただろ。」
「いや、そーなんすけど。」
「鬼灯様の獄卒時代で一番仲が良かった人がなまえさんと聞いたもんで。」

随分前から冷えてしまったお茶を飲みつつ三匹の話に耳を貸す。
まぁ拒否する理由もないし、暇つぶしにはちょうどいい。
昔に思いを馳せながら視線を遠くへと飛ばした。

「まぁ確かに一番仲良いかもな。仕事の関係上一緒にいることのほうが多かったし。」
「やっぱり!昔の鬼灯様ってどんな感じだったの?」
「今と変わんねーよ。ぶさぐれた顔しなから仕事に明け暮れてたし、特にあいつは仕事に対してストイックなとこあるから忙しすぎてた部分もあるし。」
「昔から仕事熱心だったのか。」
「じゃなきゃ閻魔大王の補佐官まで昇りつめねーって。」
「それもそうか。」

あいつは今ある地獄の構成を創る為に中国にとんだり、裁判制度の導入にあたって意見をだしたり、すごく忙しそうだった。
部署というものが出来始めて、手探りな状態で運営をし始めた時に初めて会った。
当時から頭がきれることで色々噂になっていたから、こんな下っ端の配属になるとは思わなくて驚いたもんだっけ。
まぁつってもすぐに大王の目に留まって昇格したんだけど。

「なまえさんはどーなの?」
「何が?」
「同僚が凄い勢いで昇格してなんとも思わないの?」
「…核心をつくというか踏み込むというか。君は凄いな。」
「なんかすいません…。」
「いーよ別に、俺は何とも思ってねーし。俺仕事半分趣味半分で生きてたい鬼っつーかほ程良く手を抜きたい鬼なんだよね。昇格自体は凄いなって尊敬するけど、俺は今の仕事好きだし、あいつの仕事を代わりにやれとか言われても無理だし。」
「ふーん…なんか鬼灯様とは違う性格だな。」
「いや、考えてみろよ。あいつと同じ性格のやつ一緒にしたら空気悪くなるわ。」
「「「…確かに。」」」

何を考えたのか急に顔を青くして震えだす三匹の姿が哀れだ。
慕われてもやっぱ怖いとこ見せられてきてんだろうなぁ、可哀想に。

「貴方がた知り合いだったんですか?」
「あ、鬼灯。」
「鬼灯様だ!今から休憩?」
「えぇ、午前の審判が思った以上に量がありまして。」
「相変わらず仕事ジャンキーだなぁ。」

先ほどの恐怖も何処へやら、鬼灯の足元でびょんびょん跳ねまわるシロ。
見てて凄く邪魔そう…俺なら足で適当に退かすのにちゃんとしゃがんで撫でてあげるあたり可愛がってんだなぁ。
本当あのスペックに動物好きとかどんだけだよ。

「で、何の話をしてたんです?」
「お前の笑った顔が見たいとよ。」
「笑った顔ですか。そう言われましても…心では一応笑ってるんですけどねぇ。」
「そんなのエスパーじゃないんで分かんないっすよ。」
「怒りに対してしか顔を崩さないもんなぁ。」
「別に困らないですから気にしませんけどね。」

記憶を辿っても怒った顔か蔑んだ顔しかないとかどうなんだろう…あ、驚いた時でも顔にはだすか。
無表情ではないんだが周りからしたらとっつきにくいかもしれん。
顔立ちはいいのに、勿体ない。

「それより休憩時間そろそろ終わりじゃないですか?」
「あ、本当だ!急げ!」
「待てよシロ!」
「なまえさん色々ありがとうございました。俺達仕事行かなきゃいけないんでこれで失礼します。」
「おー頑張れ。」

嵐のような奴等だな。
しかしあんなかだとルリオと気が合いそうだ。
あの礼儀正した…すっげーいいわ。
今度ゆっくり話したい。

「貴方は行かないんですか。」
「まぁいいじゃないか。」
「……はぁ」
「あ、呆れたな、今。」
「違いますよ。息抜きの仕方が相変わらず上手いのでちょっと羨ましいだけです。」
「まぁな。よくお前を誘って遊びにいったもんだ。」
「…貴方のお蔭で息の抜き方を知ったようなもんですからね。」

変な悪戯やら計画はたてる癖に何処か肩に力が入ってる感じがあった。
多分それは本人としては無意識の内なんだろうが一緒にいる身としては、とても気になるものだった。
最初のほうは嫌がってたものの、余りにも俺がしつこいもんで段々諦め気味に付き合うようになってくれて、最後のほうは向こうから誘ってくれた。
今じゃ金魚草とか現世のホラースポット巡りなんて変な趣味にはまってるみたいだ。
上手く息抜きできてるみたいで旧友としては安心だな。

「…貴方も笑って欲しいんですか?」
「はぁ?」
「私の笑った顔、見たいんですか?」

じっと俺の目を見つめる鬼灯の考えてることなんてよく分からないけど、質問の内容がおかしくて噴き出してしまう。

「ねーよ。お前が笑わなくても雰囲気で楽しんでることぐれー分かるし、お前が笑わなくても俺が笑うからいいの。」
「そうですか。」
「おう!」

にっこり。
無精面の鬼灯さんに笑顔のなまえさん、なんて言われてた時代のように笑ってみせる。
あぁ確かに顔は変わってないけど。
きっと今こいつの心では同じように笑ってくれているんだと感じた。




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