部誌4 | ナノ


水葬学



「なあ知ってるか?水死体ってとても醜いんだってさ。」

部活が終わって、一緒に帰る道。
唐突にそう言ったなまえの顔は、話の内容に似合わず爽やかに笑った。

「…何だいきなり、怖いこと言うなよ。」
「いや、急に思い出して。」
「肉まん見て思い出すことかよ。」
「悪い悪い。」

旭が顔を青くして、大地は眉間にしわを寄せる。
寄り道して買った肉まんが何だかまずそうに見えてきた。
当の本人は悪びれる様子もなくかじっているけど。

「んで、それが何なの?」
「んー?」
「いや話続けんのかよ。」
「毒を食らわば皿までって言うだろ?」
「毒じゃないけどなぁ。ただ日本じゃ火葬だろ?俺できれば捨て置かれたいなって思うんだよ。」
「はあ?捨て置くって…何だし。」

なまえは左側がほとんど見えないから道まっすぐ歩けない。
それでも背筋を伸ばして自信をもって歩く姿は凛凛しくて、クラスの女子はそこが格好いいってよく言っている。
けど意外と考えていることはちょっとズレていることが多くて。
長年友達をやっている身としては慣れたけど、でも時々なまえの見えない底が垣間見えてちょっと怖い。
今だってほら、笑ってるけど、目が遠い。

「その辺に捨てられたら周りはびっくりするだろうなぁ。」
「あー、そうだな。」

旭の一言に、何時の間にか冷えていた空気が緩まる。
頼りなく感じるけど、こうした時ちょっとだけありがたかったりする。
天然って羨ましい。

「勿論そのままじゃないさ。すりつぶして、粉にして撒くんだ。」
「あー聞いたことあるかも。」
「全部じゃなくて一部でいいんだ。風の強い日に、高いとこから撒いて欲しい。」
「千の風にやりたいってか?」
「「ブッフォー!!」」

にやりと笑いながら言った大地の言葉に俺と旭が噴き出す。
頭の中で歌手の周りを半透明のなまえが飛んでいるイメージが湧いて笑いがとまらない。
大地が追い打ちをかけるように歌い出してさらに笑いは大きくなる。

「あー、もうやめろよ!おなか痛いってば!」
「いやだって思いついちまったし。せんのかーぜーにー」
「ぶふぅ!っげほ、ごほっ!気管に入っだ!!ごほぇっ!!」
「ちょ、しっかりしろよ旭!」
「うへっ、ごっほ。」
「あーあ。」

激しくむせる旭の介抱をしていたらいつの間にか話は流れてて。
結局それ以上話が進むことはなかった。
それでも、なまえはまだ何処か遠くを見つめているような目をしてて。
まだずっと先ではあるのだろうけど、なまえの行く末を知って、彼はとても遠い存在のように感じた。

「?どうした、孝支?」
「…お前は、ここにいるよな?」
「当たり前だろ。お前の隣にいるじゃないか。」
「そうだな。」
「ずっと隣にいるよ。」

そう言って手を握ったなまえの姿はやっと何時も通りで。
少し冷えてはいるものの、確かに感じる温もりが俺の右手から全身に回るような感覚がした。




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