部誌4 | ナノ


水葬学



ツインメーラ・デ・エラ・レッドは、非常に美しい容姿をしている。紫の綺麗な髪の毛。同系色の魚のヒレに似た耳。視力がないためだという伏せた瞼はとてもミステリアスだ。地球系人類とは違う、という意味で好機の的にさらされるためか、それとも、都市警察電脳課の仕事が忙しいためか、彼は滅多に人前に出てきたりすることはない。
少し、無頓着なところのある彼だから、きっと、一番に理由は忙しいことだろう。彼は人の自分への好機には嫌気がさしている癖をして、その容姿なんかへの賞賛については非常に無頓着なところがあった。
それは、周りをとりかこっている地球系人類が頭から違うものだから、というあきらめからだろうか。きっと、それがすべてではないだろうとなまえはそう、思っていた。
「……気になりますか」
本を手にしていたレッドが聞いた。
「いや、見飽きないなぁと思ってさ」
「そうですか」
レッドはそれ以上追求しない。きっと、なまえの考えていることなんてわかっているから。彼の種族である「水麗人」というのは、成人するまでの期間は水の中で過ごす為か、目や、声帯を退化させ、代わりにテレパスが発達している。一応声もでるのだが、ひどく弱いらしい。彼が言葉少ないのは、彼の気質だけによるものではないということだ。
彼の種族を水麗人と言ったが彼の他に水麗人がいるわけではない。水麗人はとっくの昔に滅んで、たったひとりのレッドをクローニングで博物館に展示するように生かしつづけている。歴代のレッドの死因はずっと自殺だというのだから、きっと、これは問題のある計画なのではないかとなまえなんかの凡人は思うのだが、それを指示しているお偉い人間というのはそうは思わないらしい。
ああ、ひょっとして、彼らはこの美しく儚い、ツインメーラ・デ・エラ・レッドにあったことがないのだろう。
こんなに、生きづらそうな生命を見たことがないのだろう。
それを取り留めのないことというように思いながら、もう一度じっくりとハクセキの美貌を観察する。
何度見ても飽きない彼に会えることは滅多にない。なまえは同じ警察でも部署が違うし、レッドは滅多になまえのアポイントメントにOKを出さない。こんな風にじろじろ見られるのがいやなのかもしれないけれど、なまえはきっとそれほど嫌われていないだろうと思っていた。
確実な自信がある訳でもないし、根拠もないけれど。
「……レッドってさ、死んだら解剖されるのかな」
「……そうですね。死因究明の為や後学のためにそういうこともあるかもしれません」
「そっかぁ……するならなるべく綺麗に解剖してほしいなぁ」
なまえのぼやきに対してレッドは返事はしなかった。
「あんたは、きっと水葬が似合うと思うんだ」
「……水葬、ですか」
「うん。きっと、水の底に沈んでいくあんたはとても綺麗だろうと。……あぁ、そうだな。見てみたいな」
「……考えたこともなかったですが、そうですね……できるなら、」
故郷の海がいい、とレッドは言った。故郷の海というのは、水麗人の故郷だ。今はましになったのかもしれないが、地球系人類が汚してしまった海。
どんなところなのだろう、となまえは想像する。きっと彼のような美しいものが生まれた星の海だ。きっと、美しいにちがいない。
「うん。いいなぁ」
ツインメーラ・デ・エラ・レッドは死の方を向いて生きている。なまえの好きな彼の美しさはその、精気のなさにある。きっと、死んだって美しいにちがいない。鰓をなくして陸で暮らす彼が、水の中に沈んでいく。それはとても、楽しみだ、となまえはおもった。




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