部誌4 | ナノ


そうしてきみはわらった



※色々捏造有。魔理沙が真犯人だったら - if -







「、どうして…!」


カチャリと銃が軋む音がする。強く握りすぎているのか、その手は嫌に白い。
ルークは疑問と疑惑と絶望とが混ざっているのに、混ざり切れていない、その全ての色を残した瞳を目の前にいる人物へと向ける。言いたいことはたくさんある。問い詰めたいことばかりだ。それでも、それを目の前の人は、許さないだろう。


霧隠魔理沙。
ルークの世話焼き担当の先輩。ただそれだけだった。
がさつで女らしい部分なんて皆無と言ってもいいくらい、むしろ野武士のような、男が憧れるような人。

そして、何より。ルークという個人をしっかりと見つめてくれる人だった。それがルークにとってどれほど嬉しかったのか、きっと魔理沙は知らないのだろう。ルークも本人に言うつもりなど毛頭ない。
木村ルークではない、ルークとして認められた充実感。
この人にちゃんと、刑事とて、頼りになるなって、バディの片割れとして認められたいという思い。
ルークが魔理沙を先輩と呼び慕い、刑事としてやる気を見せる一番の要因はここに起因する。



そんな魔理沙にルークは今、真っ白な手で握りしめた銃を向けている。
後姿からではその表情はうかがえない。笑っているの。泣いているの。怒っているの。
本当は冗談なんすよね?
もしくは、脅されて逆らえなくて、従ってただけなんすよね?

ルークの脳裏には自分にとって都合のいいイメージだけが浮かんでは消えていった。
ふわっと風に乗る魔理沙のキューティクルが傷んだ、それでも柔らかい金髪がルークの心をもてあそぶ。





「どうしたんだぜ、ルーク」

髪の毛をふんわりとなびかせて振り返す魔理沙はルークのどのイメージとも違い、いつも通りだった。
安いスーツの袖をまくり、腰に片手をそえ、いつもと同じ強さを秘めた瞳でルークを見つめる。その瞳にどきりと鼓動が大きく一度鳴る。


「魔理沙先輩、何で…何でなんすか……!」


刑事として銃は下ろしてはいけない。でも、大好きな先輩にずっと銃を向け続けるなんて、ルークの精神では耐えられない。
ずっと温室で育ってきた。与えられるものは全て検査済で、起こる出来事は全て想定内。
危険物は取り除かれ、免疫能力はほぼ生まれた時のまま。成長するにつれて最低限は伸びてきたけど、一般的に見てみればそれは赤子のようなもの。守られ続けてきた結果、ルークは今どうしようもない現実に言葉通り、死にそうになっていた。


ルークの問いかけに魔理沙は苦笑し、肩をすくめた。


「どうしてって言われてもなぁ……」


少し悩む素振りを見せ、一つの答えを提示する。


「"どうしよう"もなかったんだぜ」



変わらないはずの魔理沙の態度に、何故か少しだけ違和感を感じた。だが、魔理沙とは対極の立場と言ってもいいルークは、その違和感の正体など分からなかった。分かるはずもない。分かってもらおうなど、魔理沙は思っていなかった。


全て順調だった。
あいつらを利用し、手助けするフリをして己の目的を達成する。
魔理沙にとっての"生きる意味"を取り戻すための戦いだった。負けるわけにはいかない、負け戦など分かってて行う価値などない。勝ち戦にしなければならなかった。その為になら、鬼にだって、何にだってなってやると、誓っていた。そう、誓って"いた"。

どこから歯車が狂ったのか。魔理沙にしてみれば、孔明やキスメ、ジャギとの再会などは些細なことだった。
目の前にいる、こいつが原因だ。



魔理沙先輩。
そう呼ばれて、喜んでいる自分がいた。全力で大好きという感情を向けてくるルークを可愛くないと思えるはずもなかった。孔明に以前言われた。

「ルークさんは大型犬ですね」

出会ってまだ数日、一週間も経っていないのにどうしてここまで懐かれたのか。どうしてここまで心を許してしまったのか。全ては、魔理沙の心の弱さが悪いのだ。
重ねてしまうから。
ルークに重ねて見てしまうから。

いつも頭の隅に在り、感じていた感情をルークは一々チクチクとついてくる。それが憎たらしく、愛らしかった。何も知らない子どもが、好奇心のみで動き、初めて見た花や虫を触るように。ほほえましくも、殺したくもあった。
重ねている時点で、殺したくとも殺せないことなど、分かり切っているのに。



懐から魔理沙は一丁の銃を取り出す。そのまま、銃口をルークへと。
自分に向けられてた銃にルークの肩は面白いくらいに跳ね上がり、今まで以上に目を見開いた。


ルークの中に魔理沙は自分に銃を向けることはないと思っていたのだろう。
魔理沙はルークの怯え方に呆れつつ、想定したいた反応だと冷静に分析する。





「なぁ、ルーク。私、これでも頭はいい方なんだぜ?」


銃口を一切揺らさず、ルークを標準越しに見つめる。
銃の腕前からすれば、ルークの圧勝なのに、相手が知人や友人だとこうも動揺するのか。

いつも冷静でいなくちゃだぞ、ルーク。

心の中でそう毒を軽く吐く。
そのままで会話は続く。




「全部完璧だった」


魔理沙に変化は見られない。



「あともうちょっとで目的達成されたのにな、本当、ヤんなっちゃうぜ」



ルークを見る瞳は先ほどと変わらないように見える。



「孔明もキスメもジャギも、全部対処出来た」



魔理沙は一度瞼を閉じ、そして開ける。
そこに浮かんでいたのは、ルークでも知っていた。これは………



「想定外は、お前がいい子すぎたことだぜ」




「は、おれ…?」



泣きそうに顔をゆがめて、魔理沙は初めて感情を見せる。
それは女の子が泣くような顔ではなく、野武士ように男泣きするわけでもなく。

魔理沙はルークの言葉を聞き、向けていた銃を下す。


「お前がもっと金持ちのボンボンらしく、厭味ったらしいやつだったらよかったんだ」


銃を下すのと同時にうつむいてしまった魔理沙の表情はうかがい知れない。



「あーあ!もう、本当…ヤんなっちまう…」

うつむいたままの魔理沙の髪の毛がやけに揺れる。
ルークは向けていた銃をおろし、様子をうかがう。気心の知れた先輩なんだ、大丈夫。大丈夫。

「お前を殺すってさー……どう考えも無理な話だぜ」


「俺、殺そうとしたんすか、魔理沙先輩…」


「目的のためなら、大小の犠牲なんて考えない。邪魔するなら殺せ。非情になんなきゃ、やってられないのぜ」



ルークの言葉に苦笑を満面に浮かべた魔理沙が顔を上げる。
苦笑と言っても、それはまるで、いつものようにルークの無茶を仕方がないなぁと言い、頭を撫でる時の表情に似ていると感じた。


耳元でカチリと何故か秒針の音が聞こえる。



「ごめんなールーク。こんな先輩で」


カチリ




「でもさ、やっぱお前とあえて、お前の先輩やれて、よかった」


カチリ




カチャ





「魔理沙先輩!?なにして―――っ」




「やっぱ、お前撃てないわ」






そう  して きみは   わ  らった






(気付いた時には駆け出してた。距離があるわけじゃなかったけど、如何せん気付くのが遅すぎた。責任感の強い先輩なら、どう責任を取るか、落とし前をつけるか。想像に容易かったはずだったのに。どうして気付かなかった!俺はずっと、初日から、この人に認めてもらいたくて頑張ったんだじゃなかったのか!やめてくれよ、先輩。どうしてそんなことするんだよ。先輩がそんなことしたって、どうしようもないじゃないか。先輩を追い詰める状況ってことは、他のことは全部片付いていて、先輩が俺に、ただ、一言、言ってくれれば、済んだのに、どうして、どうしてなんすか、先輩…!)





「"ごめんな"、ルーク」

そんな言葉で済ませられるものじゃなかった。
それだけのこと。




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