部誌4 | ナノ


バッテリー切れ携帯電話



「よお、待った?」
「お前な…いい加減携帯買い換えてくれ!」

電車に乗り遅れて、ちょっと待ち合わせ時間に遅れただけなのに、三郎は苛立ったように叫んだ。
その隣では苦笑した雷蔵の姿もある。

「何だよ、ちょっと遅れただけじゃん。」
「遅れるんならちゃんと連絡入れるのが筋だろ!それなのにお前の携帯古すぎて半日も充電もたないじゃないか!」
「てか何で俺がちゃんと携帯持ち歩いてんのわかんだよ。」
「なまえはいつも兵助と違って携帯持ち歩いてるしね。」
「まぁそうだけど。」

コートのポケットから取り出した携帯画面は真っ暗に消えていた。
家に出る前は確かについていたのに。
2年も使い続けているからか、バッテリーの消費の早さがおかしくなってしまったのだろう。

「でも困ってねえしなぁ。」
「連絡とる僕らは困るよ…。」

当時デザインに一目ぼれして購入した今の携帯は二年たっても気にいってる。
しかもスマホみたいなタッチパネル的な奴は八左の借りて触ったことあるが、あれは操作しにくい。
ガラケーのボタンを打つ感覚が何よりも好きだ。

「つうか八左たちは?」
「ハチは喉渇いたって言ってコンビニに行ってる。」
「兵助と勘右衛門はまだだよ。」

苛々と腕組をして指で肘を叩く三郎の機嫌は大分悪いようだ。
雷蔵が見せてくれたメール画面には勘右衛門からのメールで
『ごめん、遅れるわー。』
と何とも緩い内容だった。

「また寄り道かよ。俺より酷くね?」
「遅れる連絡入ってるだけどっこいだよ。」
「仕方ねぇだろ!バッテリーがねぇんだから連絡入れたくても入れらんねぇんだから!」
「だから買い換えろって!」
「まぁまぁ落ち着いてよ。」
「何だ、喧嘩か?」

三郎のしつこさに苛立ってついつい怒鳴り返したら睨まれた。
ピリピリとした空気が三人を包む中、何も知らない八左が戻ってきた。
雷蔵が事の顛末を軽く説明すると八左は目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。

「なぁじゃあ今度俺と携帯替えに行こうぜ!」
「嫌だよ、つうかお前それ最近替えたばっかじゃねえか。」
「飽きた!つうか一年位たってるし。」
「飽きたってお前な…。」
「八左は置いとくとして、なまえは物持ちがいいよね。それでもやっぱ替えとくべきだよ。何かあった時連絡取れないのは駄目なんじゃないかな。」
「うーん、雷蔵の意見も最もだな…。」
「雷蔵の言うことは何でそう簡単に聞くんだよ。」
「なんとなく。」

雷蔵に最もな意見を言われて気持ちが落ち着く。
自分は困らなくても、やはり周りに迷惑をかけていることを冷静に言われてしまっては考えも改めざるおえない。
沈黙を守る俺の携帯も、もう役目を終えるしかないのか。

「やっほー。」
「遅くなったのだ。」
「遅いぞ1組。」
「いやぁ、兵助がおいしいおからドーナッツのお店に行きたいって言うから。」
「豆腐何処いったんだよ。」
「豆腐を作る過程で出来るものも全て愛すべきだ。」
「oh…」

のんびりとやってきた1組共にツッコみを入れる八左に、兵助は何処までもまっすぐな目線で豆腐愛を語ってくれた。
…お前の豆腐愛、もう何も言えねえよ。

「全員集まったし行こっか。」
「カラオケとか久しぶりだな。」
「そーだね。」
「あー…その前に携帯ショップ行かねえ?」
「おっ、早速か!いいねぇ、行こうぜ!」
「何々、携帯替えるの?」
「ちょっとな。何かあるかだけでも確認してぇと思ってさ。」

わいわいと大所帯で移動する。
善は急げ。
どうせ今日は目的もなく集まったんだ。
ちょっと位俺の用事に付き合ってくれてもいいだろう。
ポケットの中にある冷たいプラスチックを撫でる。
やはり手放すと決心しても長年の相棒を捨てるのは名残惜しい。
ふう、と溜息を吐いて歩く。
…俺の傍を歩くこいつらとも離れなくてはならない日がくるのだろうか。
そんな日、永遠に来ないで欲しい。
柄にもなくそんなことを思ってしまった。



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