部誌4 | ナノ


バッテリー切れ携帯電話



「まじ、まじないわー」

そんな言葉が自分の口から出る事にまずは驚いているのだが。
それも今がとんでもない非常事態だからであって。
その原因は容易に想像がつくのに解決策は絶望的。

お仕事先のお山の中で絶賛放置プレイ中。

本来ならお山まで嬢ちゃんが迎えに来るはずだった。
実際昨夜までその手はずだったのだ。
それが今朝つまらないことでちょっとした喧嘩をしてしまった。
けれど嬢ちゃんもそこは割り切って迎えに来てくれると思っていた。
だからお仕事が終わった後、連絡するために携帯を取り出しぱかりと開いた。

そこにあったのは画面に貼られた一枚の付箋。
その付箋に書かれた「ばーか」という文字。
そして一切反応しない携帯電話。

「もしかして電池使い切りやがりましたか嬢ちゃんが」

本当にあの小娘は何をしだすかわからない。
今は春先だからよいものの、これが真冬とかだったらどうするつもりだったのか。
こんな山の中、真冬に放置だなんて殺意がありすぎである。
あいつはやりかねないから恐ろしい。
今回の喧嘩だって、嬢ちゃんの当番である日替わりカレンダーを勝手に破いたとかそんなくだらないことだ。
嬢ちゃんが破くの楽しみにしてるのは知っていたけど、なんとなく破いちゃったんだから仕方がない。
それでも本気で怒って、いや怒っていなくてもこんないたずらをしたりするんだから困りもの。

「はてさてどうしたものか、歩いて下山しかないんだけども」

体力的には問題がないのだが、なにぶん精神的に情けなくなってくる。
そして面倒ではあるのだが、とっても面倒ではあるのだが、嬢ちゃんのご機嫌取りに何かお土産が必要だと思う。

とっても面倒でお土産を考えることすら面倒です嬢ちゃん。

「あー・・・」

てくてく歩きながら、少しずつ色が変わっていく空を眺めながらなんとなくしんみりしたりする。
山に自生する木々の中に嬢ちゃんの大好きな花を見かけてほっこりしたりする。
この時期に合わせたように一斉に咲き、程なく散っていく花。
もうすぐ見頃を迎えるだろうその花。

「お」

そのひとつがぽとりと落ちていた。
お土産はこれにしようと拾い上げる。

「傷まないよう気を付けなきゃ」

下らない喧嘩のお詫びに花見も良いかもしれない。
嬢ちゃんの好きな人達を集めて一緒にお弁当食べたら喜ぶだろう。
下山ついでによさそうな場所を探そうか。
そうしてのんびりしていたら、しびれを切らした嬢ちゃんが怒りながら迎えにやってきた。

本当にこの嬢ちゃんはどうしたいのかよくわからない。
そんなことを考えながら、電池切らすんじゃなかったとわめく嬢ちゃんの手を取り、俺はまた歩き始めた。




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