部誌4 | ナノ


ルミネセンスの瞳



人は年をとると共に様々なことを学び、心理的に成長を遂げる。
今まで表面的にしか見えなかったものの深部を考え、気にもとめなかった事柄に勘ぐり、新たな世界を知るのだ。
…しかしそれは成長といえるのか?
俺はそうとは思わない。

「なぁ何処まで行くんだよ。」
「何処だっていいだろ。」

夜の森は生い茂る木の影によりとても暗く、枝の向こうで煌々と輝いているであろう星や月の光は弱く、足元を照らすことは出来ないでいた。
そんな状態でライトも無しにまともに歩くことなんて至極難しく、縦横無尽に根付いている木の根に何度も足をとられた。

「なあ!」
「うるせえなあ、黙ってついてこいよ。」

根を脛にぶつけ、行き先の分からない旅に苛々がつのり前方を歩くなまえに声をかける。
ちっと言う舌打ちが大きく聞こえ、影になって分からなかったけど振り返ったなまえの顔は絶対に怒ってると思う。
何年も友達をやってるから見えなくたってどんな風な表情かなんてすぐに頭に思い浮かぶ。
出逢った時は外見にあった純粋無垢だったくせに。
どうしてこう気が強くなったんだろうか。
短気だし、すぐにガン飛ばすし、手も足も出るし。
普通成長するならもっと大人な対応になるだろ。
なのに何でこんな子どもっぽく…退化かよ。
いや、こいつの場合退化じゃなく穢れたって言ったほうが正しい気がするわ。

「…お前がここまで逃げてこれた理由なんとなくわかるわ。」
「?どういう意味だ?」
「暗闇の中だと紛れやすい外見だよな。」
「あー、まぁな。ホグワーツにいた時もジェームズやリーマスの方が見つかりやすかったかも。」

ぶつぶつと愚痴を言いながら歩く俺が追いつくまで待っていたなまえは、俺の顔をまじまじと眺めるとにやりと笑った。
髪の毛も黒、瞳も黒、服装も黒にして物陰に小さくなればよくフィルチの目を誤魔化せた。
あぁそう言えば俺のアニメーガスは“黒い”犬だったな。

「ほら、もうすぐで森を抜ける。」

そう言って足取り軽やかに微かに明るくなっている森の先を目指すなまえの背を苦労して追う。
どうやら目的地は森の先にある開けた場所のようだ。

「これは……」

森全体がなだらかな傾斜になっているようで、開けたその場所は森の中で一番高いところだった。
遮る枝も葉もなくなり、輝く星々は無数で、胸の底から何かがすうっと通り抜けるようなそんな感覚がした。

「綺麗だろ、ここ。」
「……ああ。」
「お前は外に出るのに犬になるしかないからな。こうして真っ暗で誰も寄りつかない森の中なら人になってもばれやしないだろ。」
「…お前、いい奴だな。」
「はっ、今更かよ。」

上を見上げると自然と口が空いてしまう。
それをおかしそうに眺めていたなまえの姿は月と星の柔らかな光で何だか普段より儚く見えた。
長いブロンドの髪が風になびいてキラキラしているように見えるし、ちょっとだけ離れた距離のせいで普段より華奢に感じる。

「本当、なんで―…」
「あ?」

そこまで言って口を手で塞ぐ。
前にも似たような状況で失言してこいつの機嫌を悪くしたんだった。
耳ざといし、ここは静かすぎる。
どんなに声をひそめても届いてしまうだろう。

「なんだよ。」
「あー、お前がいて良かったと思って。」
「…恥かしい奴。」

適当に誤魔化したら照れたのか、ふいっと顔を背けてしまった。
頬から耳にかけて紅くなっているのがはっきり見える。
怒ったり笑ったりするのは良くあるけど、照れるなんてそうないから。
そう、だから驚いてドキッとしたんだ。
何故かつられて紅くなる顔を夜風に冷やしながら誰に言うわけでもなくそんなことを考えた。

「…いつか普通に外にでような。」
「…いつかじゃねぇ、絶対だ。」
「ふっ、そうだな。」

星空を背に俺に向かって笑ったなまえの瞳が空と同じように輝いていて、まるで彼の瞳の中に小宇宙があるようだった。




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