部誌2 | ナノ


瞬きの夢



CP9が極秘に活動するに当たって必要な情報というのは必ず存在する。
CP9という機関そのものが世界政府にとってトップシークレットであるため、その情報を集める者も政府に忠誠を誓ったものしかなれない。
彼らに対する侮辱と、確かな働きぶりに対する少しばかりの尊厳を込めて、そいつらは小汚い鼠どもという略でDM≠ニ呼ばれている。
しかし実際のところ、闇に紛れて活躍するその姿形は殆どのものが知らず、周りからは謎に包まれた連中としても怖れられていた。

「失礼します。」

スパンダムの部屋から中背の小柄な男がでてきた。
腕には沢山の書類が抱えられていて、今にも落としてしまいそうだ。

「!…やァルッチさんじゃなイですか。お久しぶりですね。」
「相変わらずこまいなDM。」

真っ白で天然のはいったふわふわの髪。
目の下まで前髪で隠れているので表情は読めないが口元は確かに笑っていた。

「この前の調査どうでした?オ役に立てました?」
「お前が役立たずだったら俺が丸飲みにしてる。」
「アァ鼠だけに猫は怖イですね。」
「…ふん。」

俺がまだ諜報部員として活躍しだした頃、こいつはもうDMとしての頭角を現していた。
限りない情報収集能力と、それを分析する天才的頭脳。
そこに目をつけた上は、こいつにそうそう武力を教えることをやめた。
下手に力をつけすぎて、仮に裏切られた場合簡単に始末できる為に…まぁこいつに限ってそういった馬鹿な行為はしねぇだろうが。
俺がCP9としてここにきた時にはもうDMという名で此処にいたなまえとは意外と長い付き合いで、
こうして稀に顔を合わせると皮肉を言い合ったりする程度に仲は良かった。

「いい加減カクにも会ってやったらどうだ。あいつはしつけぇぞ。」
「アはは鼠を名乗ってる身としてはそウ簡単に見つかる訳にもイかなイなァ。」
「お前の新人遊びも長ぇからな、カリファの時でさえ7年はかかったよな。」
「最近の子は弱イから僕を見つける前に死んじゃウんだよね…ほら、カク君の前にいた子、名前なんでしたっけ?」
「…さぁな。」
「ふふ、相変わらず厳しイね。」

肩を震わせながら抑えめに笑うなまえも心底意地の悪いやつだと思う。
この島に新人≠ニして入った人間に対してのみ行われる裏行事。
DMを自力で探すこと。
情報を探すにしても、提出する前に必ず一度まとめる必要があるためなまえは以外にも島にいることが多い。
ただこいつは影が薄い上に、人通りの少ない時間に、人通りのないルートを使って現れるし、割り当てられた部屋の存在はもうここに十数年いる俺でさえ知らない。
裏行事を終える前に死んでいったやつはもう億を越えているんじゃないだろうか。

「しかし本当鬱陶しい前髪だな、切れよ。」
「これが丁度イイんですってば…ア、駄目ですよ触っちゃァ!」

会う度に思うなまえの髪型。
初めて会った時からこいつの目を見た事がなくて、どんな色をしているのか、一重なのか、つり目なのか。
何故か分からないが顔を合わせる度にこいつの目が見たくてたまらなくなる。
その度に何時も交されてしまうが今日は両手が塞がってるし、書類を抱えたまま俺から逃げ切ることは出来ない。
嫌々と頭を振るのを固定して、そっと髪を掻きわける。

「…おい目ぇ開けろ。」
「嫌ですよエッチ。」
「………」
「ひ、ア」

ぎゅっと瞳を閉じて開けようとしないなまえの姿に腹が立って、べろりと瞼を舐め上げる。
驚き情けない声をあげてなまえは大きく目を開いた。

「!」
「ア…アーァ、見ちゃったか。」

深紅の瞳がそこにあった。
数え切れないほど命を奪ってきた俺でさえ震えるほど冷たく、あぁでも確かに興奮する色が俺をじっと見つめ返していた。

「ごめんねルッチ。」
「!」

いつの間にか驚きに固まっていた俺の拘束から抜けていたなまえは持っていた書類を宙に投げた。
バサァっと大きな音をたてて広がった紙吹雪の中なまえは懐から何かをだし、俺に近づきながらそれを煽った。
本能的に身を引いたが既に遅く、ネクタイを掴まれ勢いよく引かれた俺はそのままなまえと口づけを交す。
こいつの何処にそんな素早い動きが出来たのか、ほんの一瞬の出来事に俺は抗う術もなく口移された薬を飲み込んだ。

「お、い…今何した。」
「安心して、もウ忘れちゃウよ。」

ネクタイを持つ力が抜けて、ゆっくりと離れるなまえの顔は、真っ赤な瞳を歪ませながら綺麗に笑った。

「―もウこれで5回目だ。」
「おいそりゃどういう―」

ぱち、ぱち、ぱち、

「…あ?」
「どうしたのルッチさん。立ったまま寝てたけど。」
「そんな訳ねぇ、嫌…俺は今何してたんだ?」
「夢を見てたんだよ。」
「夢、だと?」

何故か散らばっている書類の中で、相変わらず口元だけで笑いながらなまえは言った。

「そウ、見てはイけなイパンドラの箱を開ける夢をね。」
「…からかうな。」
「ふふ、そこの角を曲がった瞬間に僕が転んで書類をぶちまけちゃった所に遭遇したんでしょ?アまりのドジっぷりに呆然としてたじゃなイ。」
「そうか?…そうなの、か?」
「そウなんですよ、ほら手伝ってよ。君等に仕事が回せなくなっちゃウよ!」
「あぁ、そうだな。」

なまえの言われるがままに書類を拾うのを手伝う。
きっとジャブラが見たらあの糞猫が人に優しくしてるとか何とか言って笑うだろう。
自分でも何でこんな素直に手伝うのかよく分からない。
なまえの能力なのだろうか、こいつといる時、何度か突然夢から醒めたような感覚に襲われる。
それと同時に喪失感も。
俺は一体、どうしてしまったのだろうか。

「?何だい?」

不思議そうに笑うなまえの顔は逆光で見えなかったが、何故か目と目があったような気がした。




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