部誌2 | ナノ


手紙



社長室の高級なソファーは、体重を預ければ絶妙に沈みこみ、仕事で疲れた体を包んでくれる。そこにごろりと横になって、大きな紙袋にこれでもかと詰め込まれた手紙の山から、なまえのうつくしく手入れされた白い指は無造作に一通摘まみ上げた。
一度開封され、検閲された跡の残る手紙にしたためられているのは、なまえに魅了された者たちからの、愛の言葉。それを気だるげな雰囲気とは裏腹に一言一句逃さず目を通して、なまえは次の手紙へと手を進めた。

「貴様、それしか用がないなら出ていけ」
唐突に、苛立たしげな声がなまえに投げられた。声の方向を見やれば、不快だと言わんばかりに顔を顰めた男。なまえからすれば上司にあたる黒井社長の言葉にも、彼は肩を竦めるばかりでソファーから動こうとはしない。
「ファンレターを読むだけなら他所でやれ。目障りだ」
「僕は、ファンレターを読むときは社長と一緒にって決めてるんです」
微笑む顔はテレビで老若男女を虜にするもの。しかし黒井はそんな顔で誤魔化されるものかと、むっつりと腕を組む。
なまえは体を起こしてソファに座り直すと、黒井に見せつけるようにひらひらと振った。
「僕知ってるんですよ。社長が、僕やジュピターの為に全国を走り回って仕事を取ってきてくれてること」
「わ、私はそんなことは!」
「うん、社長は妙なところで照れ屋ですよね」
なまえやジュピターたち、961プロのアイドルたちに隠れて行っていた営業を見透かされ、黒井はますます眉を寄せて黙り込んだ。そんな反応をものともせず、なまえは微笑を浮かべて「だから」と続ける。
「このファンレターは僕だけの成果ではないと思うんです。社長がいなければ、こんなにファンレターは貰えなかったと思うから。僕があなたの前でファンレターを読むのは、仕事が成功した喜びを社長と一緒に味わいたいからなんですよ」
僅かに首を傾げ、トップアイドルに相応しい、花が綻ぶような笑顔を見せる。無邪気なその表情に黒井はうっと声を詰まらせ、しばし沈黙した後にくるりと椅子を回して背を向け、「勝手にしろ」と吐き捨てた。
「はい、勝手にします」
黒井の許可を得たなまえは、ソファーに深く凭れかかり、次の封筒に手を伸ばした。今度はジュピターも呼んで社長室に来ようかと、黒井が知れば止められるようなことを考えながら、なまえは自分への愛が綴られたファンレターを読み始めたのだった。




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