部誌2 | ナノ


手紙



ひとりの少年が歩いていました。
少年には何かの動物の角が生えていました。
少年は自分が住むことの出来る国を探して旅をしています。
いままでにいくつかの国をまわりましたが、いろいろな理由で少年の居場所はありませんでした。
けれど、少年はあきらめることなく国を探して歩き続けていました。
そしてまた、新しい国にたどり着きました。
その国は、きれいな桃色の花が咲き乱れる国でした。
少年はまず、国の役所に行ってみようと、町の人に場所を聞こうとしました。
すると、いきなり服を捕まれ、ぐいと引き寄せられます。
あわてて振り向けば、それは果物屋のおばさんのしわざでした。
少年が驚いていると、周りをうかがう様子の果物屋のおばさんが、小さな声で教えてくれました。

「この国はお前のようなものは嫌われるよ」

この国は、少年のように角があったり、獣のすがたであったり、からだのどこかが足りないものは、まともな暮らしが送れないというのです。
この国の王様が、それらをひどく嫌っているからという身勝手な理由でした。
けれど、数日であれば隠れて休める場所があると、果物屋のおばさんが一軒の小屋に案内してくれました。
その小屋に入ったとたん、紙とインクと獣の匂いがしました。
そこには、真っ赤なインクで大きく×と書かれた手紙らしきものと、それを食べているヤギがいました。

「違反手紙の処理場だから、めったに人は来ないよ」

それでも、役人には気をつけてと言い残し、果物屋のおばさんは去って行きました。
歩き疲れていた少年は、小屋の唯一の住人であるヤギにあいさつもせず、隅っこに布団代わりの布を敷いてすやすやと眠りはじめてしまいました。
目覚めたのは翌日ね昼頃でした。
ぼんやりとした表情で布団の上に座り込んでいます。
するとヤギが少年をじっと見つめていました。

「起きたな」

そしていきなり、ヤギがしゃべりました。
どうやってしゃべっているのかはわかりませんが、手紙を食べながら少年に近付いてきます。

「よぉ、ちょいと相談があんだよ」

口の悪いヤギでした。
けれど、ヤギの相談とやらを聞くと、ヤギは良いヤギだということがわかりました。
この国は王様の独裁で、思い通りにならないと大変なことになるそうです、逆らうことは当然許されません。
国を追い出されたり、殺されてしまうこともあるそうです。
ヤギが食べている手紙は、王様が考えた決まりに違反する手紙でした。
少年が読んでみますが、それはただ、しあわせに暮らしたいという気持ちが綴られただけの手紙でした。
そんな気持ちを、他の国の人に宛てた手紙たちでした。

「全部、こうやってここに集められて、処分されるんだ、俺が食べるって形でな」

けれども、ヤギが食べられる量をはるかに越えて、手紙が届くのです。

「俺は食いっぱぐれねぇし、国のやつらの手紙なんてほっといても良かったんだけどよ、こんなのが届いちゃあなぁ」

ぺら、とヤギが取り出した手紙は、手紙というよりただの紙切れでした。
けれど、そこにはこう書かれていたのです。

やぎさんたすけて

「果物屋のババァがよ、ひとりでいるのは寂しいだろってガキ共に俺の居場所教えてやがんの」

その教えた子供からの手紙らしきそれを、ヤギは大事そうに持っていたのです。
他の国の住人が、ここに現れるのを待ちながら、大事に大事に持っていたのです。

「これや、他の手紙をよ、外の国の奴、出来れば偉い奴に渡して欲しい、この小屋の中で消えていくだけの想いを、誰かに託したいんだよ」

そのヤギの想いも、国の人々の想いも、少年は受け取ることにしました。
純粋にこの想いを届けたい気持ちが生まれたからです。
そして、この想いを届けることで、自分に居場所が生まれるような気がしたからでした。
次の日の朝、少年はまた、旅に出ました。
小さな荷物の中に、大きな想いを詰めて旅立ちました。
目的地は、隣の国のお城です。
そこは、海に面した大きな国、海の国と言われるその国は、戦いもとても強い国でした。
優しく強い、とても平和で、正義感に溢れた国でした。

少年が背負うものを、届けるにふさわしい国でした。

それから、ひとつ季節が進みました。
桃色の花が散り、青々とした葉が生え、強い日射しがまぶしい季節でした。
海の国の王様が、ふたりのお供を引き連れて、空を見上げていました。
目の前にある国の人々の想いを手に、ふたりのお供に笑いかけます。

「良い天気です、神の元に逝くのにふさわしい日だ」

その日、花の国の王様の、わがままな日々は終わりを告げました。
海の国の王様の、平和な日々もまた、終わりを告げました。

これが、ひとつの時代のおわりと、小さな手紙から生まれた、長い長い時代のはじまり、そして、ひとりの少年が居場所を見つけた物語なのでした。




prev / next

[ back to top ]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -