部誌2 | ナノ


瞬きの夢



油を差し、火を灯して今宵も彼人の一伽を待つ。廊下の薄暗い奥から、ゆるく軋む踏み足を聞いて峰の心の臓が脈打った。白い襦袢に朱褥、甘くただれた香を焚きしめ、女中に磨かれた吾が身を薄く包んで三つ指ついて頭を下げる。ふすまが開けられた。淡紫の垂れ幕をくぐり、現れ出た姿は久方ぶりの彼人であった。
 赤く火の明かりが当たれども、いっそう黒く輝く御髪と、部屋に充満した甘香をかき分けるような彼人の匂いはいっそう女の胸をくすぶらせる。湯あみをして垂れた髪であるからこそ、いっそう潤みをおびて峰の瞳をとらえて離さなかった。またの奥の、女の底がじゅんと濡れた。ふとももをすり合わせるような、そのようなはしたない真似などできるはずもなかったから、峰はただ体を震わさぬように体を固くして、眉を寄せた。
どうか、いまだ恐れをなした臆病なおんなだと思っていてくれるな。峰は心のうちで彼人に呼びかけた。どうか、今宵もあなただけのおんなに。
そうして峰はひと時の夢に浸かる。瞬きはあまりしない。できるだけ目を開いて、彼人の色づく顔を、さらけ出された欲に濡れる顔を見ていたかった。




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