行方知れず
いつもどこか遠いところを見ているひとだった。
青空の向こう、遥か遠く先までを見通しているかのように、彼方を見ているひとだった。
一緒にいる時だって不意に遠くを見るものだから、拗ねて見せるとごめんと笑いながら軽く返されたっけ。
あの時の寂しさを伝えられていたら、こんなことにはなっていなかったのだろうか。
「なまえせんぱい……っ」
お願い、返事して。どこにも行かないで。そばにいて。
願っても祈っても、あなたはそばにいない。そのことがこんなにもかなしい。
ぽっかり空いた胸の穴、開けたのはあなただ。その穴を塞げるのもあなただけなのに。
星空の下、慟哭はかなしく響く。
聞きたいのはそんなものじゃないのに。あなたの優しい声が聞きたい。少し低めの声出し、穏やかな心音、少し高めの体温、かさついた指先。こんなにもまだ鮮明にあなたの残像が残っている。
「どうして、せんぱい」
隣にあった熱を感じられないことがかなしくて苦しくて、菊地原は自分自身を抱きしめた。
「どうして」
疑問に応える声は、ない。
みょうじなまえが連れ去られたのか、あるいは己の意志で密航したのかはわからない。不意に消えたトリオンの反応と、置き去りにされたみょうじの鞄にあったシステム手帳にその日以降の予定が一切記載されていなかったために、上層部も決定的な判断ができないでいた。
どっちでもいい、どうでもいい。何が何でも連れ戻してみせる。何もかも、話はそれからだ。
隣にいて、笑ってみせて。
そしたら、いろんなことを訊くから、だから。
どうかお願いだから、生きていて欲しい。
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