部誌3 | ナノ


虚構が崩れる音がした



「え、承太郎って椎茸嫌いなの?」
「……」

眉を寄せてむっつり黙るってことは肯定ととっていいのかな?
学校じゃあ知らぬ人はいない不良のトップの空条承太郎にそんな弱点があったなんて驚きだ。
しかも椎茸嫌いだなんて…何か笑っちゃう。

「おい、てめぇ笑うんじゃねぇ。」
「いや、ごめん…でも、ふふ。」
「ちっ。」

舌打ちしてもふてくされたように帽子の鍔を下げるだけで手を出さないのは僕のことをちょっとは認めてくれているのだろうか。

「ごめんってば、それよりほら、何処が分かんないの?」
「……ココだぜ。」

笑いこらえて取り繕うように承太郎に問題集を差し出せば、ある問題を指差す。
彼と知り合ったのは突然だった。

『勉強を教えろ。』

たったその一言を述べて僕を図書館から連れ去った。
あの不良のトップである空条承太郎に声をかけられたことに萎縮、そして次に彼の吐いた言葉に驚愕した。
不良が、勉強を教えてほしいなんて。

「うーん、これはひっかけだね。前の問題に引っ張られてるだけだよ。」
「根本から違ったって訳か。」
「うん、落ち着いて考えれば解けるよ。」

じっくりと問題を眺めてペンを走らせる承太郎の横顔を眺める。
彼が勉強をし始めたのは行きたい大学があるから。
何でもヒトデが好きで、その研究家になるために海洋学専攻の大学に進学したいのだとか。
クラスでも平凡で、ちょっと成績のいい僕からしたら不良なんて未知の生き物で。
最初は何か気に食わないことがあったら殴られるんじゃないのだろうか、とかそもそも間違いを指摘していいのだろうか、とか色々なこと考えて気まずかったけど、今ではそんなことはない。

「…おい、解けたぞ。」
「うん、合ってる。さすがだね。」

承太郎は頭がいい。
大学を目指す前は赤点すれすれだったのに僕が教えてからはめきめきと点数はあがり、このままいけば第一志望も余裕で合格できるだろう。
男としての器量もいいし、恵まれた肉体に素面。
正直いって羨ましい。

「しかし椎茸ねぇ…。」
「おい、何時まで引きずってやがる。それはもう済んだ話だろ。」
「ふふ、いいじゃん。僕も嫌いな食べ物位あるし。」
「…ちっ、やれやれだぜ。」

長く溜息を吐いてコーヒーを口にした承太郎はお決まりの口癖を呟いた。
あぁでもあまりからかいすぎるといけないな。
やはり彼はちょっと短気で、殴りはしないけど軽く叩かれたことあるし。

「でも何で嫌いなの?」
「…おい。」
「いいじゃん、理由位。勉強以外で君とそう話したことないんだから。」
「……」

また眉を寄せてむっつりしてしまった。
やっぱり男としてのプライドが許さないのだろうか。

「―からだ。」
「え?」
「だから!あの独特の風味が嫌だっつってんだよ!」
「いって!」

あまりにも小さい声で呟くから聞こえなくて、聞き直せば怒鳴られた。
しかも結構強めで頭叩かれたし。
痛くて殴られたところを抑えると舌打ちが聞こえた。
涙目で彼を睨めば承太郎は背中を向けていて。
でも学ランの襟と帽子の隙間から見える耳が真っ赤で。
…あの超有名な空条承太郎の姿とは思えなくて。
何だがニヤけてしかたない。

「何笑ってやがる。」
「ふひ、うん、ごめ、ふふ。」
「…てめーやっぱ馬鹿にしてんだろ。」
「ちが、くふっ、うう゛ん!何だか嬉しくってさ。」
「あ?」
「ふふっ、教えないよ。」
「?」

不思議そうに僕を見る承太郎に笑いかける。
あぁ君を知るごとに何だか色んな驚きが止まらないんだ。
ねぇ君はどんな人間なんだろうね。




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