部誌3 | ナノ


お察しください



雨音と寒さで目が覚めた。
ぶる、と身体が震える。
寒がりの私にはそろそろ厳しい季節となる。
その上、困ったことに、ここのところお天道様が姿を見せてくれない。
雨のせいで空気が冷たくて仕方が無いのだ。
思いきって夜着を準備しても良いのだが、そうすると貯めた給金が全て飛ぶ。
どうしたものかと考えていると、また寒さで身体が震えた。

「起きよう」

女中の仕事が始まるまでにはまだまだ時間があったけれど、身体を動かせば暖まるだろう。
周りで眠る他の女中達を起こさないよう、そっと部屋を後にした。

「そろそろ吉継様、火鉢とか仰らないかな、ちょっと早すぎるかな」

そんなひとりごとを呟きながら台所へ向かう。
台所に向かう途中、一匹の猫が擦り寄ってきた。
吉継様が可愛がっている元野良猫だ。
私も時々遊んでやるため仲良しだ。

「ついてきてもごはんはないですよー」

そう言いながらも猫を抱き上げる。
そのまま抱いていると、とても温かい。
これは良いと私はそのまま抱いて行く事にした。
到着した台所は、当然だが無人だった。

「ちょうどいいですね、お掃除しちゃいましょうか」

普段簡単な掃除はしているが、細かな所となると暇が無い。
この機会に気になっていた汚れを落としてやろうと作業を始める。
台所まで一緒にやってきた猫は台所の隅っこでうとうとし始めていた。

黙々と掃除をする事約半刻、お掃除も終盤に差し掛かる。
そろそろ掃除の片付けをしようと台所を出る。
台所のすぐそばの井戸に水を汲みに訪れると、見慣れた人が廊下を散歩をしていた。

「あらまぁ珍しい」
「ぬし、濡れておるぞ」
「仕方が無いです、吉継様とってもお早いですね」
「寒ぅて目が覚めてな」

その言葉に、何やら覚えがある私。
これはさっき思っていた火鉢も可能かもしれない。
けれどもこんな早い時期からそんな物を使っては真冬が大変そうだ。
ならばせめての、願いがある。

「吉継様」
「なんぞ、にやにやしおって」
「寒がりな吉継様に寒がりな私めからお願いがあります」
「・・・我と眠るなどとは申すまいな」

その吉継様の言葉に私はえへへと笑う。
その笑いの意味を理解しかねている吉継様。

「さすがの私もそこまで無礼ではないつもりです」
「ならば何ぞ」
「貴方の愛でるあれを、貸してくださいませ」
「愛でる・・・ぬし、まさか」

その日の夜。
着物を少し緩めて眠る私。
その着物の中では、吉継様の猫がすやすやと眠っていた。




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