部誌3 | ナノ


お察しください



ディオを倒す為に旅をして幾日目。
空路や海路で行くには敵と遭遇した際に、逃げ場がないため陸路で地道にエジプトへと向かっていた。

「ん、む…。」

ジープの、しかも荷台に乗って整備されていない道を走るのは腰が痛くて仕方ないし、予定外のルートで向かっているからほとんど休まずに先を急いでいた。
だから睡眠時間は車を停めた僅かな時間と走っている間だけで満足に寝ることなんて出来なくて。
うとうとしては車が跳ねた衝撃で目を覚ますことを繰り返していて、とてもじゃないけど身体が休まる訳なんてない。
でも女だからって理由で甘えるのだけはしたくなくて、隣で鼾をかいて寝ているポルナレフが羨ましくて仕方なかった。

「大丈夫かなまえ、顔色が余りよくないぞ。」
「えぇ平気よアブドゥル。」
「辛いなら無理しないほうがいい。承太郎に言って助手席に座ったらどうだ?」
「大丈夫だってば…お風呂に入れないのが嫌なだけだから。」

日本とはまた違う気候に汗ばんだ身体は舞い上がる砂埃とくっついてすごく気持ちが悪い。
最後にホテルに泊まったのは何時だっただろう。
カレンダーも時計もない。
曜日感覚なんてとっくになくなっていて、ただ朝と夜の繰り返しで今が日本を発って何日目なのかなんて遠の昔に忘れてしまった。

「わしもいい加減シャワーが浴びたいの〜。」
「次の町まではそう遠くないはずだぜ。」
「おぉ、なら今夜はホテルに泊まるか!久々にベットでゆっくり眠りたいわい。」

運転していたジョゼフさんはそう言うとアクセルを一気に踏み込んだ。
その力でがたんっと大きく揺れた車体に驚いたポルナレフが寝惚け眼でまわりを見渡す。

「んだぁ?あー、此処どこだ?」
「全く…良くそこまで寝てるよね、羨ましいよ。」
「んー?なまえ、どうかしたか?」
「次の町で宿に泊まるんだ。」
「おー!嬉しいねぇ!!」

眠そうに目を擦るポルナレフに苦笑した花京院の顔色にも疲労がうかがえる。
スタンドという特殊な力を手に入れても、こうも長距離で無茶な旅を続けていると誰だって疲れはたまる。
それが私だけじゃないんだと、ちょっとだけほっとしてしまった。







「えー?!部屋が3つしかないだとぉ?!」

町についた時にはもう日が暮れはじめていて、小さな田舎町だからお店はどんどん閉まり始めていた。
町で唯一という宿屋は町の規模がうかがえるほど小さく、生憎ダブルの部屋が3つしか空いていないと言われてしまった。

「どうするよ部屋割。」
「そんなもんくじでいいじゃあねぇか。」
「否しかしのぅ、なまえを誰かと一緒にするのはちぃとまずくないか?」

…男だけの旅だったらこんな風にもめることはなかった。
私が女だからこそ発生してしまった問題。
こういう時、私は女に生まれてきたことを死ぬほど後悔する。

「…私、別に気にしないし。」
「いやそうもいかん。年頃の女の子が男と一夜を共にする危険を分かっていない。」
「大丈夫だってば!」
「なら俺と一緒に寝よ―ぜ!」
「馬鹿いうなポルナレフ!全くお前という奴は…!」
「なまえはわしらのことは気にせず一人で部屋を使いなさい。いいね?」

アブドゥルとジョゼフさんの大人コンビが私を宥め、どんどん話を進める。
承太郎と花京院は我関せずって感じでことの成り行きを見守っていた。

「んで…」
「?おいどうした?」
「何で!何時も女だからって!大丈夫だって言ってるのに!」
「あっ、おいなまえ?!」

今までの旅で溜まったフラストレーションが一気に爆発した。
仕方のないことだって頭では分かっている。
でも男だから分かることとか、女だから感じることはどうしても出来てしまって。
同じ仲間なのに埋められない溝みたいなのがずっと私の中で燻ってた。
堪え切れずに泣いてしまった私はそんな顔見られたくなくて、外に向かって走りだそうとした。

「ハイエロハント。」
「「「!」」」

花京院のハイエロが私の身体を拘束してピクリとも動けない。
ぽろぽろ落ちる涙も拭うことも出来ないし、こんな風に不満を爆発させたことが恥かしくて、悔しくて、止まらない涙にただ項垂れた。

「大丈夫かい?なまえ…君疲れてるんだよ。早く部屋で休んだほうがいい。」
「……」
「ジョースターさん、僕なまえを部屋に送ってきますね。」
「お、おぉ頼むわい。」

花京院が優しく私の肩に触れるとハイエロの拘束は消え、彼に促されるまま私は部屋へと足を進めた。

「さあここだ。今日はシャワーでも浴びてゆっくり寝るといい。」
「…ごめんなさい、私、その」
「君が言おうとしてることは分からなくはないよ。けどやはり仕方のないことだと理解しなくてはいけないことだ。」
「………」

部屋に着いてベッドに腰掛けた私に花京院は優しく語りかける。
その言い方が子供に言い聞かせる親のようで、同い年の彼に説得されることが恥かしくって俯いてしまう。
あぁ彼はどんな顔をしているのだろう。
それよりも、みんなは呆れてしまっただろうな。

「心配しなくてもみんな分かってくれるさ。」
「…そうかしら。」
「旅をして随分経つけど僕らはまだお互いの距離を測りかねているんだ。それが今日になってたまたま、衝突してしまった。ただそれだけだ。」

隣に座って項垂れる私の頭を優しく撫でてくれた花京院の声はずっと優しい。
ちらりと視線だけ、彼に向けるとそこには声と同じように優しく微笑む彼の姿があった。

「ねぇ花京院。」
「なんだい?」
「私ね、男だったらどんなにいいかって思ってたの。どうしても感じてしまう性の壁に、ずっと孤独を感じてた。」
「うん。」
「部屋だってずっと一人で、隣ではなんだか楽しそうな声で話すあなた達が羨ましかったの。」
「うん。」
「旅をしてても一番最初にバテてしまうのは私だし、私の為に休憩してくれることだって多々あったわ。」
「うん。」
「仕方がなくても、やっぱり嫌だったの。」
「うん。」

花京院は静かに私の話を聞いてくれた。
相槌しか打ってなかったけど、今まで胸につかえてたものが吐き出せて私には十分だった。
その間も彼はずっと私の頭を撫でていた。

「はぁー、ごめん、ありがとう。」
「どういたしまして。」
「ぐすっ、いい年して仲間はずれが嫌だって泣いて恥かしいわ。」
「そう?僕は可愛いと思うけど。」

吐きだしたら気持ちが落ち着いて、泣いてたことが急に恥かしくなった。
袖で目元を拭い誤魔化すように笑うと花京院は真剣な目で私を見つめていた。
その瞳に胸が高鳴って顔が赤くなってしまう。

「っからかわないでよ、もう!」
「んー?ふふふ。」
「…でも本当ありがとう、優しいのね花京院は。」

真っ赤になった顔を逸らすとそれを追うように上半身を倒してくる彼は楽しそうだった。
そんな彼にちょっと腹がたったけど、でも彼の優しさが嬉しかったのは本当で改めて礼を言う。

「ねぇ、その花京院ってやめない?」
「え?」
「みんなの中で唯一苗字呼びなの僕だけで嫌なんだ。」
「?…いいけどどうして急、に」

ぎしっと鳴ったベッドの音にはっとする。
いつの間にかお互いの息がかかるほど顔が近づいていて、彼の綺麗な緑色の瞳に釘付けになった。

「えっと、花京い「違うよ。」…の、りあき?」
「ふふ、なあになまえ。」

距離はそのままに、名前を呼ぶと彼は嬉しそうに笑った。
ねぇ、貴方ってなんでそんなに優しいの。
そう聞きたくて、でも聞かなくても私を見つめる瞳が語っていて。
あぁ、彼って、策士だわなんて鈍くなった思考の向こうで、私の脳は彼への口づけを命じていた。




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