部誌3 | ナノ


やわらかな棘



自分が言えた義理ではないが、みょうじはもう少し事後の余韻を楽しむことを覚えた方がいい。
「……あと30分でレヴィ達が来る。シャワー浴びたらさっさと帰れ」
張が動かずにいるのを横目で見やると、#familyは浴室へ向かった。身体はべたつくものの吐精してすぐの気怠さが勝っている。林の背中に彫られた蛇の刺青が嘲笑ったように見えた。ああ、自分は、少し疲れている。

勢いよく水が噴出す音が聞こえる。半ば無理矢理、初めて抱いた後、みょうじは全身が赤くなるまでずっと体を洗っていた。妙に満たされた征服欲と少しの虚無感に気付かない振りをして、みょうじがロアナプラに留まるよう外堀を埋めた。今じゃドック・みょうじと言えば東アジア系――特に三合会御用達の闇医者にして臓器売買ブローカーだ。時折『きちんとした』病院で臓器提供の仲介をしている姿も見かける。

「『信用できそうに見える者だけが信用される』……か」
「なら、まずはあのクソ仰々しいサングラスを止めるこった」
「それは無理な話だ。童顔は馬鹿にされやすい」今日は割と出るのが早い。必要以上に触らないようにする癖はすっかり身に付いていた。手首と腰にだけ赤紫の痕。まるで下手な宗教画のキリストか罪人だ。
「はあ?なに、お前、俺に優しくされたいの?」
「かもしれん」
「気持ち悪い。相変わらずユーモアのセンスは最悪だな」シャワーをどうぞ、張大哥。こちらを見ずに言うみょうじの気分は少しだけ良くなったらしい。
「最初にやり方を間違えたのはお前だよ。優しくされたいなら優しくすべきだった」
「シグザウエルを持った闇医者に優しくするマフィアの顔役なんざ映画の中だけで充分だ」
「グラッチもある」診療所に置いてる、とみょうじは事も無げに言った。初耳だが、この街の治安を考えれば仕方のない話だ。
「シグザウエルの置き場所は誰にも言うなよ。ホモの闇医者なんて噂が立とうもんなら、お前ンとこの部下全員変態だって言いふらしてやる」
「言うわけないだろ」

護身用の銃は枕の下――それを知っているのは、俺だけでいい。




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