部誌19 | ナノ


滲んだ文字



それを見つけたのは偶然だったのか。
ヘドが倒壊した施設の中から使えそうな資料を探していると、瓦礫の隙間で揺れる物が目に留まった。風に煽られ、乾いた音を立てる紙片を摘み上げる。四つ折りにされた紙を広げれば、端は焼け焦げていたものの、問題なく読むことができた。
少し下手くそな文字で綴られていたのは、ヘドが何度も聞いたことのあるセリフで。勢いのあるタッチで描かれた、お世辞にも上手いとは言えないキャラクターは、特徴からガンマ達なのだろう。1号らしきシルエットに寄りかかる2号のような人物。その横には「肩に腕を置くとかっこいいかも?あとで相談!」とか「最後にピストルポーズ!」などと走り書きされている。

──ああ、これは。あの子のメモだ。

ヒーローに憧れて、そのように在れと願い、持てる技術を込めて生み出した我が子。造物主の望み通り、かっこよく正義を執行するために戦い、最期は主の過ちを贖うために命を賭して立ち向かった、僕のヒーロー。そんな彼が描いた理想の一欠片が滲んでいく。ぼろぼろと瞳の奥から熱く込み上げる感情が頬を伝い落ちていく。

「……博士」

異変を察知したのか、ヘドに近づいた1号も主の手に握られた紙片に視線を落とした。表情の乏しい己とは対照的で、いつも軽い調子で軍の人間とも親しげにしていた片割れ。誰より早く状況を見極めて、1人砕け散っていった相棒。欠けることなどないのだと、疑いもしなかったのに。今のガンマ1号の隣には空白だけがあった。
きゅ、と眉間に力を入れ、唇を引き結ぶ。そうでもしなければ、胸に空いた穴から重くどろどろとした激情がまろび出てしまいそうだった。躯体にそのような欠損はない。判断を鈍らせるような、理性を揺さぶるような感情など、プログラムされていないはずなのに。

「悲しいなあ、1号」

呟くような主の言葉に、この気持ちが寂しさであると知った。
雨が降ってくる。彼の記した思考の残滓が滲んでいく。肩くらいいくらでも貸してやればよかった。あんな取るに足らない言葉の応酬すら、今はただ輝かしく、懐かしい。

「ですが、我々は生きねばなりません。2号の行いを無駄にしないために」

俯いていた顔を無理矢理上げた。これからも、あの日々を振り返るだろう。記憶媒体に記録された映像を再生する事も、あるのだろう。だが、それでもこの歩みを止めるわけにはいかない。彼が拓いた未来を、より良いものにするために。悪を倒し、正義を示さなければ。
私たちは、天才科学者Dr.ヘドに造られたスーパーヒーローなのだから。



prev / next

[ back to top ]



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -