部誌19 | ナノ


ファミリーレストラン



 時計が日付を跨ぎ深夜と名前を変えた時間でも、煌々と店内を照らす蛍光灯の明るさが、疲労がピークを通り過ぎて2回転はした目に容赦なく突き刺さる。
 24時間営業のファミレスが、未だかつて人生においてこれほどありがたく感じたことがあっただろうか。
 言葉なくとも向かい合わせの座席によぼよぼの体を伸ばして脱力しきっている、みょうじと七海の心はひとつだった。
 セルフサービスの水だけをなんと辛うじて持ってきたが、座席に座ってしまえばもう指一本すら動かせる気がせず、注文をしない嫌な客になってしまっているのを内心で謝罪する。
 みょうじは深くシワの寄った目元をしょぼしょぼさせながら、おぼろげな記憶を振り返る。
 情報の誤伝達、二転三転する被害者の報告と上からの命令。
 度重なる再出向に実害がなかったのが唯一の救いだ、と自分達を慰め合ったところにまさかの呪霊実体化応戦戦闘。
 仕事も食事も睡眠もぐちゃぐちゃにされた3日間がようやく終わって、お情けの有給2日間を力尽くで毟り取ってきたところだ。
 常々労働はクソとのたまい定時上がりを心がける七海と、ごくごく一般的なサポート呪師みょうじ。
 メンタルと肉体の疲労はとっくに限界を迎え、自宅に直帰するのもままならず七海に引きずられるようにして駆け込んだのは24時間営業のファミレス。
 そういえば最後に飯食ったの昨日の夜だ…。
 座った座席の背もたれに頭を仰向けにあずけながら思い出せば、たぶん腹は減ってるような気がするとべこべこに凹んでいるような気のする腹がやけに存在感を主張した。
 頭を動かすのも億劫でのろのろと伸ばした指先で、テーブルの上のメニューをたぐりよせ感触だけでなんとか開いてみせる。
 ハンバーグ、パフェ、ピザ、定食に、気づいてみれば飢餓状態の胃があれもこれもと脳みそに注文をつけてくる。
 なんとか上体を起こしてメニューに伸ばした手が、はからずも少しかさついて温かい何かに触れる。
 のそのそと視線を上げると目の下に疲労からか薄暗い影の差した顔が、同じようにこちらを見つめていた。
 甲に筋と血管が浮いた七海の手が、伸ばしたみょうじの手に重なっている。
 暫くの間、じっと見つめ合っている姿の滑稽さを鈍った頭の片隅が認識だけしていた。



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