部誌19 | ナノ


春眠



いつもの時間に、いつもの公園に行く。
大通り沿いの広い芝生がある公園。背の高いパームツリーが並んでいて、ギザギザした葉っぱがゆらゆらと気持ちよさそうに揺れている。
このマイアミらしい景色にやっとなれてきた。これを心地よく感じるのは、彼のおかげと言ってもいい。
赤毛の(レッドとも言うけど、ジンジャーとも言う、と教えてくれた)彼は、根気よく下手な英語を聞いて、答えてくれる。
この街を大嫌いになりかけたのを、助けてくれた恩人でもある。感謝してもしきれない。

カフェで買ったコーヒーを両手に持って、芝生の上に座った。木陰にいると風が心地良い。熱い太陽に照らされた肌を、ゆっくりと鎮めてくれる。

英語の本を開く。彼が来るまで勉強することにした。全部英語で書かれた、英語の勉強の本は、絵がいっぱいあって、言葉も文法も勉強できる。日本の文法と長文ばっかりの教科書と全然違う。宿題の作文を書くために、ノートを開く。ぺらぺらと風でページがめくれた。

真っ白なページがとてもまぶしい。睨みつけるように、太陽を見上げた。
そういえば、彼はマイアミの空みたいだな…。ぎらぎらした太陽のような赤い髪、晴れ渡った青い空と同じ、きれいな青い目。

はやく、来ないかな。
勉強もつまらなくなって、ゴロンと寝転がった。コーヒーはそろそろ冷めてしまいそうだ。まだ30分も経っていないのに、もう待ちきれない自分が、ちょっとおかしい。

1時間待っても来なかったら、今日は帰ろう。そう決めてまた教科書に向った。1行、2行と文を読んでいるとだんだん手に力が入らなくなってくる。

ああ、眠くなってきた……。だめだめ、しゅくだいは…しないと…。



何かが髪に触れて、ハッと体を起こした。
「Hey」
「……ハイ」
「Mornin'」
「ホレイショ……?」
ホレイショはなんだか複雑な顔をして、こちらを見ている。
バサっと、スーツの上着が落ちた。一周りもニ周りも大きい背広。これって…ホレイショの……?
「あの、えと……」
「よく寝ていた」
「あの、センキュー」
「um……いいかい、ここは日本じゃないんだ。君も身をもって知ってるだろう?こんなところで無防備に寝てはいけない。いいね」

きれいな青い目が、少し悲しそうに見つめてくる。本当に、心配させてしまったみたいだ。
「あ……、ごめんなさい。ソーリー」
それからホレイショは何もとられていないか、何もされていないかと確認してくれた。

「これからは、気をつける。本当に」
「ああ、そうしてくれ。約束だ」
「うん、約束」

「さて、今日は何を話す?」

そう言って笑った顔は、やっぱり太陽みたいに素敵だった。



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